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警報が鳴り響く。
二度目のアスカード牧場はやはり、以前よりも警備がずっと厳重になっていた。
牧場から脱出したと言うピエトロさんからハイマで貰ったオーブを使っていなければ、入り口の辺りでとっくに囲まれてしまっていただろう。それでも中に入れば侵入者の警報が鳴るのだから、やはり油断はできない。
襲い掛かってくるディザイアンを退けながら、わたしたちはこの牧場の情報を得られるコンピューター室を探して足を進めた。

「くそっ、クヴァルめ。この間はこんなに厳重じゃなかったじゃねえか! なんでこんなに面倒な仕掛けが多いんだよ!」
「まったくだ。特にここは面倒なものが多いな。強行突破できれば……」
「ちょ、ちょっと、二人ともそんなにピリピリしないでよ」
「そうだよ。ロイドはともかく、クラトスさんまでどうしちゃったの? なんか、ずっと怒ってるみたいだ」
「怒ってなどいない!」

ひっとジーニアスが小さく悲鳴を零す。
クラトスさんはそれに気付くと、気まずそうに視線を逸らした。

「……すまない。一刻も早く司令室へ向かおう」

さっと歩き出したクラトスさんに、思わずジーニアスがわたしに寄り添ってくる。普段怒鳴らないクラトスさんの様子に、ショックを受けたようだ。
わたしも結構びっくりしている。先ほどからずっと、ピリピリとしているとは思っていたけれど。まさか、普段いつも静かにわたしたちを守ってくれている彼が、あんな風に声を荒げるところを見ることになるとは思わなかった。

「……家族って、やっぱり特別なんだね」

背中をさすってやっていると、ぽつりとジーニアスが呟く。
それを聞いて、ああそうか、クラトスさんの家族はディザイアンに殺されたんだったな、というのを思い出した。ルインは知り合いの故郷であるとも言っていたし、彼にもいろいろと思うところがあるのだろう。
当たり前だけれど、みんな……みんな、何かを抱えている、のだ。

「ボク、姉さんしかいないから……お父さんとお母さんの記憶なんてないし、突然ロイドみたいなことになっても、あんな風に怒れないかもって、思ってさ」
「……いいんじゃないかな。怒っても、怒らなくても。表現はみんな違うわけだし。わかりにくかったって、本人にもわかんなくたって、悲しんでないわけじゃないよ」

つらくても泣かない人はたくさんいる。
怒ることも出来ないで、泣いている人だってたくさんいる。
だから、怒ったり泣いたりするだけが正しいわけじゃないと、なるべく優しく答える。

「笑ってたって、泣いてるよ」

マーテルさんも、笑ってた。
ヘイムダールにいた時、どれだけ虐げられて、どれだけ濡れ衣を被せられても、それでも笑ってミトスくんを守ってた。だからわたしは彼女を守りたかった。笑いながら泣いてる彼女を助けたかった。
もういないし、もう出来ないけど。出来なかったから、今度こそ、コレットもロイドもみんなを助けたいと思って、ここにいる。それにわたしだって、彼らほど激情にかられることはできないけれど、ちゃんと怒っている。表面に出てくるものだけが感情のすべてではないのだ。
それに、冷静にいてくれる人がいないのも、それはそれで困るしね、と笑えば、ジーニアスがそっとわたしの手を握ってきた。

「……ナギサって、なんか長老みたいだよね」
「は? 長老?」
「いつもみんなを見守ってて、悩んだらそっと後押ししてくれるから」
「……それ、長老なの? ていうか、誉めてるの?」
「もちろん!」
「……まあいいや」

自信満々に言われたから、誉められていることにする。
しかし長老か。うん、なんか、微妙な気持ちだ。

「……ありがと」

わたしが微妙な表情をしている横で呟いた、かすれた感謝の言葉に、わたしは返事はしなかった。
聞こえてはいる。でも、彼は聞こえないくらいがいいと思っていること、自分の気持ちを小さく小さく呟くだけで満足すること、わたしも知っていたから。その小さな照れ隠しと、けれど素直な気持ちは、いつもちゃんと聞こえているから。
だから今は、ひたすらに前に進んだ。