40-2

「では、ここからは二手に分かれましょう。クヴァルを倒すチームと、ガードシステムを解除するチーム。分け方は……そうね、ロイドに任せるわ」

クヴァルがいるだろう部屋に行くためには、ガードシステムを解除しなければならない。牧場内の地図を睨みながら判明したそれに、二手に分かれようと言うリフィルさんの提案は当然のように受け入れられた。
彼が連れて行ったのは、同行を強く希望したコレットとクラトスさん、そしてリフィルさんだ。攻守ともに戦闘のバランスがいいチームである。
そして残ったわたしとしいな、ジーニアスがガードシステムの解除と、余力があれば収容されている人たちを逃がすチームだ。
わたしはある程度なら牧場の機械を操作できるし、しいなはルインの人たちと顔見知りということ、そして牧場に収容されている人たちを早く助けてあげたいジーニアスである、ということで、こちらもいい感じにバランスが取れた、というところだろうか。

「あんた、大丈夫かい? 顔が真っ青だよ」

そうして分かれてガードシステムの解除をしているわけだけれど。どうしても目に入る牧場の光景に、かつての戦いで死にかけたことを思い出してしまって。……ここで何が行われているのかを、考えてしまって。
気が滅入ってしまっていると、しいなが心配そうに顔を覗き込んできた。彼女だって、そんなに顔色はよくない。それなのにこちらの心配をしてくれる彼女に、わたしはなんとか笑顔を返した。

「……大丈夫だよ。こんなところにいて、気分が悪くならない方がおかしいって」
「それはそうだけどさ。……もし、何かあったら、早めに言うんだよ」
「ありがとう。……しいなって、コレットの命を狙ってきた割に、妙に優しいっていうか、ドジっていうか変な感じ。暗殺者向いてないんじゃない?」
「そ、そりゃあ、暗殺なんてしたことないけどサ……ドジとまで言うかい?」
「そりゃあ……ねえ」
「ねえ」

落とし穴の上にいた運の悪さといい、お祈りしているところで動揺して何もできずに帰ったことといい。ドジというか、締まらないというか、なんというか。すごく率直に言ってしまえば賑やかで間の抜けた印象の方が強い。
思わずジーニアスと顔を見合わせて、一緒になってうなずいてしまうくらいには、たぶん、みんな同じことを思っている。
彼女もそれがわかったのだろう。むっと顔をしかめた後、コホンと咳払いをした。

「……こっちにも事情があるんだよ」
「ふうん。ま、今は聞かないけど。……そうだ、聞きたいことがあったんだ。しいなって、ナギサと似たような名前の響きだよね。もしかして、違う世界から来たの?」
「は、はあ!?」

驚きすぎではないだろうか。
ジーニアスの無邪気な質問に、大きく体をのけ反らせるのは、それが図星だからなのか、わたしが異世界の人間だということにびっくりしたのか。ちゃん付けとか気恥ずかしいからやめとくれ〜っていう話はしたけど、わたしの事情は話していないから、後者でもおかしくはない、けど。なんというか、それにしても驚きすぎだとは思う。
うーん、少なくとも日本の文化に近い、忍者の里みたいなところの出身ではありそうなんだよね。それがシルヴァラントには存在しない里で、ジーニアスの指摘が正しいから驚いた、とかだったりして。
……ちょっと、そうだとすると、いろいろと納得できちゃう言動が、彼女にはとても多いのだけれど。それが真実なら、ドジとかうっかりとかいう話ではなくなってしまいそうなので、とりあえず今はジーニアスの口を手で塞いでおいた。

「ごめんね、あんまり気にしないで」
「い、いや、その……」
「しいな! あっちにいっぱい人がいるよ!」

ちりん、と可愛らしい鈴の音を立てて、どこからともなく小さな狐が現れる。
知らない子だ。狐だよね。でも今喋ったな。
思わず立ち止まって凝視してしまったわたしとジーニアスに、その狐はヤバ、と小さく呟いた。

「え、誰?」
「可愛い……」
「あ、あー! どうやら収容されている人たちがいるみたいだ、早くみんなを助けるよ! ほら、早く起動しとくれ!」

しいながばっと狐を抱え込むように隠して、さっさと話を切り上げる。
彼女の知り合いなのは間違いなさそうだ。名前も呼んでいたし。そして今、そのことについて特に説明する気はない、ということだろう。
じとりとしたわたしたちの視線を振り切って、人がいっぱいいる、という方向に向かって彼女は進みだす。今は追及しなくてもいいか、とジーニアスと肩をすくめてから、わたしたちも後ろに続いた。

小さな狐が言っていた部屋には、収容された人たちがいた。
以前、パルマコスタで見たのと同じ。大きな牢屋みたいなところにぎゅうぎゅうに押し込められて、みんな暗い顔でうなだれている。
近くにあるはずの鍵を探して牢屋を開いて、わたしたちは彼らのところへ駆け寄った。

「あんたたちは……」
「マナの神子のお供です。神子があなたたちを助けに来たんですよ。さあ、しっかりして」
「神子さまが……」

ジーニアスの説明に、わあっと誰かが泣く声がする。
よかった、よかった、と繰り返す言葉に、なんだか居たたまれない気持ちだった。
あらかじめ決めていた脱出ルートへ続く扉を開いて、みんなが自分で動けるのを確認したところで、そうだ、とジーニアスが近くの人に話しかける。

「ところで、この中にパルマコスタから来た人っている? ショコラって女の子を見かけなかった?
「ああ、ショコラならここで培養種検査を受けていたよ。その検査でどの牧場へ連れていかれるかが決まるんだ。ショコラはたしか、イセリアの方に連れていかれたはずだが……」
「イセリア……そうか、ありがとうおじさん」

もしかしたら、ある程度血縁者は同じ場所に行くことになるのかもしれない。どちらにせよ、今すぐ彼女のところに行くことは無理そうだ。
仕方ないとうなずいて、とにかく出口へ急ごうと小走りに走り出した。

「さあ、とにかく逃げよう。みんな、ついておいで!」
「あんた! しいなさんっていったな! あんたも助けに来てくれたのかい」
「あ、ああ……」
「ありがとうね」
「いいんだよ! そんなの気にしないどくれよ」

みんなを出口まで誘導しながら、ガードシステムのスイッチを切る。それなりの人数はいるけれど、おそらくクヴァルの方へ向かったロイドたちが大暴れしているのだろう。警戒していたほど見張りの数は少なく、苦労することなく全員を牧場の外まで連れ出すことができた。
でも、ここから先は申し訳ないけれど、彼らだけで逃げてもらうことになる。町まで送ることは時間的に厳しい。その代わりしっかりとアイテムや道具を持たせて、彼らがしっかりと牧場の敷地外へ出ていくのを確認してから、わたしたちは再び牧場内へと駆け出した。

「よし、これでこっちの任務は終了だね。急ごう!」