19-1

かつて世界の中心に、マナを生む大樹があった。
しかし争いで樹は枯れ、代わりに勇者の命がマナになった。それを嘆いた女神は天へ消えた。
この時女神は天使を遣せた。
「私が眠れば世界は滅ぶ。私を目覚めさせよ」
天使は神子を生み、神子は天へ続く塔を目指す。
これが、世界再生の始まりである……


それは、おとぎ話。
現代の文字を覚えるついでに書いた、神話の言い伝え。
わたしがきっと一生縁を結ぶことのなかったであろう、シルヴァラントの文字で記した文章を指先でなぞって、わたしは用意してもらった部屋で一人、静かに息を吐く。
この勇者と女神が、わたしの知っている人たちのことを示しているのかはわからない。調べようがない。それでも、そうだったらいいな、と思ってしまうのは、ハーフエルフだからと迫害されてきた彼らが、あの日大樹の前でした約束を胸に、前を向いて生きてくれたのだと信じたいからだろう。
勇者として、女神として、多くの人に愛されてほしいと、そう願っているからだ。

ミトスくんと、マーテルさん。
わたしにとって、今も大切な、二人の家族。
別のノートを引っ張り出しては、彼らとの思い出を、わたしの世界の文字で思い出せる限り綴っていく。
わたしが生まれ育った故郷のことを、これ以上忘れてしまわないように。
わたしを助けてくれた、優しい人たちを忘れないように。
四千年前に置いてきてしまった君たちとの約束を、果たせないならばせめて忘れぬようにと、ノートに残す。

相変わらず、この世界には悲しいことがたくさんあって、大変なことばかりだ。でも、綺麗なものもたくさんある。美しい景色があって、分け隔てなく手を差し伸べる人がいて、笑いあう人たちがいる。
彼らはあの後、どんな風に生きたのだろう。どんな風に旅を続けて、最期にどんな景色を見たのだろう。
もう知ることもできないし、会えることもないだろうけれど。
どうか、元気で。
最後まで、幸せに、健やかに。
生きていてくれたなら、それでいい。

ノートに綴って、ペンを止める。
そうしてまた一ページ。増えた彼らとの思い出の記録を、わたしはぎゅっと抱きしめた。