「コレット! この傷……!」
「やだ、ひどい……!」
今度こそクヴァルが動かなくなったのを見て、慌ててコレットへと意識を戻すけれど、切れた服の間から見える傷に、思わず息を飲んだ。
だって、だって、すごく血が出てる。上から抑えても、治癒術をかけてもなかなか止まらない。こんなに深々とつけられた傷なら、立っているだけでもつらいはずだ。
けれどコレットは何でもないようににっこりと笑って、大丈夫だと手を握り返してくる。
それに、違和感があった。
なんだろう。彼女がいつも、相手を安心させようと、自分のことを後回しにして笑ってみせること、知っているけれど。天使疾患の時だって、いつも笑っていたけれど。
その時の笑顔と、何かが違う気がする。何が違うのだろう。何が。
「心配してくれて、ありがと。でもだいじょぶだから。なんかね……痛く、ないんだ。えへへ、おかしいよね?」
「大丈夫なわけないだろ! 先生、あんた癒やしの術が使えるんだろ? 早く治してやっておくれよ!」
「ええ、だけど……!」
「コレット。俺はもう、我慢出来ないからな」
ロイドが先生の言葉を遮る。
クヴァルは倒したのに、彼の顔は変わらない。表情は怖いくらいに真剣な様子で、わたしたちに向かって口を開く。
「みんな聞いてくれ。コレットには今、感覚がないんだ」
……え。
その、言葉を聞いて、すぐには意味がわからなかった。
なに、それ。どういうこと。ちょっと理解が追いつかない。
……感覚がないって、どうして?
「え……何、どういうこと?」
「感覚がないって……」
「コレットは天使に近付いてる。でも、眠れなくなって、暑さも寒さも痛みも感じられなくなって、涙だって出ない。天使になるって、人間じゃなくなるってことだったんだよ!」
ちょっと、ちょっと待ってよ。
ロイドが何を言いたいのかわからない……わかりたくない。
人間じゃなくなる? そりゃあ、天使になるんだから当然だろう。天使と人間は違う生き物だ。羽も生えたし、そう、違うものになるのは、わかっている。
わかっている、けれど。眠らなくなるって、どうして? 感覚もなくなって、涙もなくなって……え?
それは、人間じゃない、というよりも。生き物じゃなくなる、みたいだ。
「ロイド……私ならだいじょぶだから。それより今は、この牧場をなんとかしよ?」
わたしたちがまだ混乱している中、コレットが申し訳なさそうに笑う。
傷の痛みなど感じないように、いつも通り。優しい笑顔を、浮かべている。
「先生、前みたいに牧場ごと破壊できないかな」
「やってみるわ」
「……過激だねぇ。ま、それが一番いいんだろうけどさ」
「……終わったら、町に戻ろう。その……コレットのこと、ちゃんと聞きたい」
「ボクも……あ、でも、ルインじゃちゃんと休めないかな」
「ならアスカードが良かろう」
「みんな……ごめんね」
そんなのはいい、けど。
でも……本当に、何が何だかわからなくて。
わたし、こんなに理解力のない子だったかな、なんてぼんやり思って。
「準備出来たわ。急いで脱出しましょう」
ただ縋るように、神様に祈るように。
胸の中で、何度もマーテルさんの名前を呼んでいた。