「ユニコーンに接触出来ないかしら」
リフィルさんがそう言い出したのは、翌日のことだった。
「この近くのユウマシ湖の水底に、ユニコーンがいるという話なの。治癒術は、ユニコーンの角を研究したことから始まった……その力を使えば、コレットもクララさんも助けられるかもしれない」
「そうなのか!?」
先生の言葉にロイドが食いつく。
声を上げなかっただけで、わたしもジーニアスも目を輝かせた。
「……驚いた。こっちにはユニコーンがまだ存在してるのかい?」
「こっちには……?」
「ああ、いや、こっちの話さ」
しいなが慌てて目をそらす様子は明らかに怪しいけれど、みんなはすぐにユニコーンへと話題を戻す。話したがらないことより、目の前にある希望を掴む方が、今は重要だからだ。
……それにしても、やっぱりしいなって別の世界の人なのかなあ。でもわたしとはまた違う世界の人っぽいし、わたしよりちゃんとこの世界にも詳しいし。どういうところの出身なんだろう。別の世界がある、なんて伝承も聞かないし、謎だらけだ。
「でも、水底なんですよね? 潜れる深さなんですか?」
「難しいと思うよ。ユウマシ湖はそんな浅いところじゃなかったはずだし」
「……方法が、ないわけじゃないよ」
小さく、しいなが控えめに呟く。
自然とみんなの視線は彼女に集まることになるから、しいなは少し居心地が悪そうだったけれど。それでも、当初のわたしたちの関係なんて忘れて、コレットたちのことを助けたいと思ったのだろう。彼女はたじろぎながらも、その方法を提案した。
「こっちの世界にいるはずのウンディーネを召喚して、水のマナを操るんだ」
「ウンディーネって……確か、水の精霊だよね。精霊ってそんな簡単に召喚できるの?」
「そりゃあ、無理だよ。精霊の力を借りるには召喚士が必要なんだ。召喚の契約を交わして、初めて精霊の力を使役できるようになる」
「召喚の技術は途絶えて久しいと聞いているわ」
「あ、あたしが……」
そっと、しいなが手を上げる。
自信なさそうに目をそらしながら、けれどはっきりと、その手を伸ばす。
「まだ契約はしてないけど、契約さえすれば……あたしが召喚出来るよ」
「しいなって召喚士なんだ〜」
「符術士だよ! ……召喚も出来るけどサ」
一応ね、と相変わらずそっぽを向いたままだけれど、要は彼女が召喚士の素質を持っているおり、ウンディーネと契約することさえできればユウマシ湖の水底にいるユニコーンと接触できるだろう、ということだ。
召喚士って、あれだよね? こう、契約者の名において……とか言って、召喚獣を出して戦うやつ。もしかして、しいながこの間連れていた狐みたいな子は、召喚獣だったりするのかもしれない。いや、ここでは召喚獣というくくりはなさそうだから、精霊、になるのかな。あの子はなんの精霊なんだろう。
「で、どうするんだい? あたしも無理には……」
「いや、ユニコーンの角は絶対に必要なんだ。頼むよ、しいな」
まっすぐにロイドがしいなを見る。
しいなはその視線をしっかりと受け止めてから、わかった、と強くうなずき返した。
「……わかったよ。なら、水の封印に行こう。ウンディーネは封印の地にいるはずさ」
「ということは、ソダ間欠泉だね」
「つまり、たらいだね」
「うん!」
コレットが嬉しそうに返事をする。楽しかったよねえ、と笑う彼女は、以前から何も変わってない。感覚がないなんて嘘なんじゃないかってくらいいつも通りだ。
それが少しだけ悲しくて、でも彼女も笑っているからとわたしも笑顔を返す。
……正直、たらいにはもう、乗りたくないんだけど。仕方ない。
「精霊と契約か〜、楽しみだなあ」
「またそんなこと言って……」
「どうせすぐに飽きるのだろう」
「な、なんだよ。気になるんだから仕方ないだろ」
「気になるのはいいんだけどさ」
「飽きっぽいのは問題だ」
「うるさいな! 二人してたたみかけるように言うな!」
「うるさいってことはないでしょ!」
「お前の姿勢について言われているのだぞ!」
「三人とも! うるさくてよ!」
歩き出した前の方では、相変わらずロイドたちが騒がしい。
まあ、最近はちょっと収まって来たとはいえ、ロイドの飽き性っぷりは問題だから、こうして指摘してもらえるのはいいことだろう。クラトスさんとジーニアスのロイドへの保護者ぶりが板に付いてきたなあとか、仲良しでいいことだなあとか、まあ、前向きなことをたくさん考えておいて。
そのうえで、わたしは苦笑した。
「……緊張感、無いな〜」