湖底に沈むユニコーンのところへは、コレットとしいなの二人が行くことになった。
なんというか、まあ、どこの世界のユニコーンも清らかな乙女しか近寄らせてもらえないとのことで。リフィルさんが「大人だから」と同行を断ったところ、ロイドたちが大人の定義を詳しく聞こうとしたものだから、わたしも残ることになったのである。
二十歳以上は大人。しいなは十九歳だからギリギリセーフ。お酒解禁の年齢もここでは二十歳とのことだったので、まあ通用する言い訳だろう。リフィルさんが先ほどからずっと水辺に近寄らないあたり、彼女が本当にそういう意味で「大人」なのかは怪しいところだけれど、詮索するようなこともでない。
まあそんなわけで、男性陣とわたしとリフィルさんの五人で居残り組として湖畔で待機しているわけだけれど。正直、暇だった。
ユニコーンは湖の中心付近に沈んでいるから、二人の背中くらいしかわたしじゃよく見えない。ウンディーネの召喚には成功したし、きっとユニコーンとも会話くらいしているのだろうけれど。声だって当然聞こえないので、わたしたちは見学することもできず、非常に暇、なのだ。
ロイドも飽きてしまって、ジーニアスと地面に落書きして遊んでいたが、ふと何かを思い出したようにクラトスさんに話しかけた。
「なあクラトス。傭兵と細工師って、どっちが儲かるんだ?」
「仕事の内容によるが……なんだ。傭兵にでもなるつもりか」
「ちげーよ。俺は将来親父を継ぐんだ。そんで、でっかい船を造って世界を回るんだぜ」
「昔からの、ロイドの夢なんだよね」
「ああ! ジーニアスとコレットを一番に乗せるって約束もしてるんだぜ!」
ロイドの傍らでジーニアスが嬉しそうに笑う。
そういえば、前にイセリアで暮らしている時もそんなことを言っていたな。ダイクさんに頼んで船の模型を作ってもらって、自分でも作ってみよう、って木材を集めて何か作っていたのを覚えている。
いいなあ、船を造って世界を回るって、いかにも夢と希望にあふれた将来図だ。ほどよく大きくて、ほどよく実現しそうで。それでいて明るくて、ロイドらしい、素敵な夢。
「世界が平和になったら、傭兵なんて暇だろ? だから、俺の船に乗せてやるよ」
にっこりとロイドが笑う。
最初はよくクラトスさんに噛み付いていたけど、もうすっかり仲良くなったようだ。クラトスさんは一瞬それに目を見開いて、それからすぐにいつものように薄く笑った。
「……フ」
「な、なんだよ。言っとくけど、ナギサと先生を誘うからそのついでにってわけじゃないぞ。俺、あんたを嫌ってるわけじゃないからな」
「いや……それは楽しみだ」
あ、嬉しそう。
なんとなくだけど、クラトスさんの周りの空気が嬉しそうに柔らいだような気がした。子供の綺麗な夢に誘ってもらえたことが、そんなに嬉しかったのだろうか。……嬉しいだろうな。わたしだって嬉しい。今こうして一緒に旅をしている子供の未来図に、当たり前に自分の居場所を思い描いてもらえるんだから。
いい夢の話だな、となごんでいると、やがて湖からコレットとしいなが戻ってきた。
おかえり、と駆け寄ると、何故かしいなは涙目で、コレットも浮かない顔をしていて、わたしは首を傾げる。
「二人とも、お帰りなさい……どうしたの?」
「……ユニコーンは死んだか」
「あんた、知ってたのかい?」
「え、どういうこと?」
「角はユニコーンの命そのもの。それを失えば彼らは死ぬ……けれど、代わりに新しいユニコーンが生まれる。そうして生き続ける。だからユニコーンは死と再生の象徴なのよ」
コレットの手には、ユニコーンの角が乗せられている。
……ああ、そっか。つまり、これを託したことで、ユニコーンは死んでしまったのか。
「今も新しいユニコーンが、生まれているんですか」
「恐らくね」
「……生まれてるといいな」
祈るように指を組んで、コレットは角を先生に渡す。
あとはこれを発展させる方法を、マナの守護塔で探しましょうと彼女は言った。
そしてコレットは、自分にこれを使うつもりはないと、はっきり告げた。
「コレット……」
「いいんだよ、ナギサ。私は世界再生の途中だもん。それより、絶対助けてあげるって約束した人たちに使おう」
そっと微笑む彼女は神子だった。
世界を救うと決めた、神子だった。