「……みんな、聞いてくれないかな」
夜営の最中、緊張したような面持ちのしいなが、そう言って立ち上がった。
わたしたちを見回す表情は硬い。ウンディーネとの契約や召喚する時と、そう変わらないそれに、きっととても大事な話をしようとしているのだろうと、わたしの膝に寝そべるコレットをそのままに、わたしは背筋を伸ばした。
「どうしたんだ、急に」
「どうしてあたしが神子の命を狙っていたのか、話しておきたいんだよ」
「聞きましょう。この世界には存在しないあなたの国のことを」
「知ってたのか!?」
「いいえ。でもあなたが言ったのよ。シルヴァラントは救われるって。それならあなたは、シルヴァラントの人間ではないってことでしょう」
ああ、さすがだ。わたしですら「もしかしたらシルヴァラントとは別の世界から来たのかも」と思ったのだから、リフィルさんがその可能性を考えないわけがない。
ううん、きっと彼女のことだから、しいながわたしの世界とも違う場所から来たのだろうこともわかっているだろう。静かに言葉の続きを待つ彼女を見て、しいなは適わないなと首を振った。
「……ああ、あんたは本当に、シルヴァラントには勿体無い頭脳を持ってるんだね。その通りさ。あたしの国はここにはない。このシルヴァラントには」
「どういうことなの? ナギサと同じってこと?」
ジーニアスの問い掛けに、しいなはわたしを見る。
そういえば、わたしが異世界出身だって伝えるの忘れてたな、なんて今になって気付いたけれど、この話題は今関係のないことだ。
とりあえず後で話すよと言って、話の続きを促した。
「あたしの国は「テセアラ」……そう呼ばれている」
テセアラ。
その単語にどきりとする。
これもミトスくんたちと過ごしていた時によく聞いた名前。わたしたちがいた、エルフの里ヘイムダールのある国の名前。今は、月の名前として伝わっている、遠い昔に消えてしまった国の名前。
「テセアラ? テセアラって月のこと?」
「まさか。あたしの国は確かに地上にある。あたしだってよくわからないんだ。でもこのシルヴァラントには、光と影のように寄り添い合う、もう一つの世界がある。それがテセアラ……つまり、あたしの世界サ」
「寄り添い合う、二つの世界?」
「二つの世界は常に隣り合って存在している。ただ見えないだけなんだ。学者たちに言わせると、空間がズレているんだと。とにかく二つの世界は、見ることも触れることもできないけれど、確かにすぐ隣に存在して干渉しあってるってわけサ」
「干渉しあうってどういうことだ?」
「マナを搾取しあってる」
短く言い切って、しいなは一度深呼吸をした。
「片方の世界が衰退する時、その世界に存在するマナは全てもう片方の世界に流れ込む。その結果常に片方の世界は繁栄し、片方の世界は衰退する……砂時計みたいにね」
「待ってよ。それじゃあ今のシルヴァラントは……」
「そう。シルヴァラントのマナはテセアラに注がれている。だからシルヴァラントは衰退する。マナが無ければ作物は育たないし、魔法も使えなくなっていく。女神マーテルと共に世界を守護する精霊も、マナがないからシルヴァラントでは暮らせない。結果、世界はますます滅亡への道を転がり落ちる」
しいなの話は、自分も異世界出身だというのになかなか信じがたい。
シルヴァラントの人ではないだろうとは、思っていた。彼女は自分の世界のためにコレットを殺そうとしたのも本当だろうと思っていた。彼女は嘘など言わないだろうことも、わかっている。
そうわかっているのに、聞かされる世界の仕組みはあまりにとんでもなくて、信じたくない。かつてわたしが聞いた二つの国と同じ名前を持った二つの世界が、砂時計のような関係で衰退と繁栄を繰り返しているなんて、すぐには理解しがたい。
「じゃあ、神子による世界再生は、マナの流れを逆転させる作業なの?」
「そういうことだね。神子が封印を解放すると、マナの流れが逆転して封印を司る精霊が目を覚ます。あたしはこの世界再生を阻止するために送られてきた」
彼女の背後で月が輝く。
彼女は決して嘘など吐いていないと後押しするように。
「超えられないはずの空間の亀裂を突き抜けて、テセアラを守るために」