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テセアラを守るために。
テセアラの繁栄時代を守るために。
それはつまり……嫌な言い方をすると、シルヴァラントにはずっと衰退世界であれという意味だ。いっそのこと、シルヴァラントなどそのまま消滅しても構わないという意味ともとれる。当然だ。仕方ない。誰だって、自分の世界を守りたい。
そうわかっていても。ロイドの表情が思わず険しくなって、ぐっとこぶしを握るのが、ここからでも見えた。

「それは……シルヴァラントを見殺しにするってことか」
「そうは言うけど、あんたたちだって再生を行うことによって、確かに存在するテセアラを滅ぼそうとしてるんだ。やってることは同じだよ」
「信じられないわ。寄り添い合う二つの世界だなんて」
「あたしが証人だ。あたしはこの世界では失われた召喚の技術を持ってる」

とんと自分の胸を叩いて主張する。
それからついとわたしの膝でまだ横たわるコレットを見て、しいなは辛そうに表情を歪めた。

「……そんな目で見ないどくれ、コレット。あんたがそんなつもりじゃないことはわかってるよ。あたしだってどうしたらいいのかわかんないんだ。テセアラを守るために来たけど、この世界は貧しくてみんな苦しんでる。でも、あたしが世界再生を許してしまったら、今度はテセアラがここと同じようになっちまう」
「でも、今はボクたちに協力してくれてるよね」
「だからってテセアラを見捨てることは出来ないよ! なあ、他に道はないのか? シルヴァラントもテセアラも、コレットも幸せになれる道はサ!」
「俺だって知りたいよ!」
「でもそんな都合のいいもの……あるわけないよ」

みんながハッピーエンドを迎えるなんて出来ない。
ありえない。そんな都合のいいもの、あるわけない。
それを、この場にいるみんなが知っているから、みんな悔しそうに唇を噛んでいる。

「我々に出来る最善のことは、今危機に瀕しているシルヴァラントを救うことだ」
「例えば世界を再生しないで、ディザイアンだけ倒したらどうかな」
「確かに牧場は破壊してきた。しかしディザイアン全員を滅ぼせるわけではない。マナもやがて枯渇する」

クラトスさんの淡々とした返答に、ロイドは乱暴に自分の頭をかいた。

「マナってそんなに大事なものなのか?」
「魔法使いや学者以外はあまり気にしたこともないかもね。命にとって、マナは水よりも大切なんだよ。それが無ければ大地は死ぬんだ。全てを構成する源がマナなんだよ。ボクはそう学んだ」
「御伽噺のようにマナを生み出す大樹は、この世のどこにもない。私たちは限られたマナを切り崩して生きているのよ」

かつて、わたしがいた時代に繁栄し始めていた魔科学は失われた。
それによってマナの消費はだいぶ抑えられただろう。けれど、どうしても生きる限り、マナは消費されていく。ミトスくんたちと危惧していたように、大樹カーラーンが姿を消しておとぎ話になってしまったこの時代では、もうマナを生み出す大樹は存在しない。限られたマナを切り崩して生きるしかできない。だから、二つの世界は、それを奪い合う。
テセアラに、今シルヴァラントが体験しているような衰退を押し付けるか、シルヴァラントがこのまま滅びるか。選択肢は二つしかない。だけど……だけど、それをはいそうですかと認められないから。しいなだって、どちらも選べなかったから。だから、今、どうしたらいいんだって、途方に暮れている。

ふと、コレットが起き上がった。顔色の戻った彼女はロイドの方へと近付いて、彼の手をとる。そうして、その手のひらに指を滑らせ始めた。

「コレット? レ……ミ……エ……ああ、文字を書いてくれてるんだな?」
(レミエルさまにお願いしてみる。二つの世界を救う方法が無いか。)
「……もしもうまくいかなかったら、あたしはやっぱりあんたを殺すかもしれない」
(その時は私も戦うかもしれない。私もシルヴァラントが好きだから。)
「……わかったよ。どうあっても、あんたは天使になるんだね」

降参だよ、としいなは肩をすくめる。
ああ言ったけれど、きっとしいなは戦わないだろう。彼女は優しいから。止められなかった自分の責任だ、くらい言って、世界が再生されるところを見守るのだろう。
そしてコレットは天使になってしまうのだ。
それが本当に正しいのか、本当は他にも道があるんじゃないか、考えるけど……やっぱり、答えは出なかった。