「ミトス! やっぱりミトス! でもどうして!? さっきの攻撃は? それにどうしてレアバードを……」
「ごめんなさい。ボク、やっぱり心配で、みんなの後をつけていたんだよ。それで、レネゲードって人たちにお願いして、レアバードを貸してもらったんだ」
「でも、あのものすごい攻撃は……?」
「あれは……ボクにもわからないよ」
レアバードで空を駆けながらここに来た経緯と状況を説明していたミトスは、最後に申し訳なさそうに首を振って視線を落とした。
せっかく待っていて、と言い聞かせたのに、と思わないでもないけれど……心配だからと後を追う気持ちはわかるし、戦闘が得意なわけでもないのにここまで来てくれた彼を叱る人は誰もいない。むしろ、彼がいたからこそ知りえる情報があるとばかりに、みんなは風を切る中で一生懸命に彼に耳を傾けた。
「ボクは笛が聞こえたから、どうにかして中に入ろうと思って、必死でドームにファイアボールをぶつけただけなんだ。そうしたら、突然金色に輝く鳥がやってきて、ボクを助けてくれたんだよ」
「金色に輝く鳥? ……まさか、アスカ?」
「まさか! 精霊がどうして……」
「どういうことなんでしょうか?」
以前、光の封印を解放した時に出てきた精霊が「アスカはどこ」と問いかけてきたことは、まだちゃんと覚えている。光の精霊はアスカとルナの二人いて、あの精霊はきっとルナだろう、とは言っていたから、一所留まっていないらしいアスカが偶然通りかかったとしてもおかしくはないけど……
でも、攻撃は確かに飛龍たちだけを狙っていた。明らかにあれは、わたしたちを助けるための行動だった。気まぐれにしては都合がよすぎる。まだ契約をしていないどころか出会ったこともないわたしたちのために、彼女が現れる意味もわからない。
「まさかと思うけど、ジーニアスが吹いた笛の音がアスカを呼んだとか?」
「ミトスの笛が?」
「どうかしら……その笛自体を調べてみないと、なんとも言えないわね」
「それよりみんな、休んだ方がよくない? パルマコスタに戻ろうよ。ボク、ニールさんに黙って出てきてしまったから、謝らないと……」
「そうだな……詮索しててもわからねえし、とりあえず行くか」
考えるのは戻ってからにしよう。こんな上空では落ち着いて話もできない。
そう話を切り上げたところで、ジーニアスが自分のレアバードをミトスのそれに寄せる。それから、彼の名前を呼びかけると、ありがとうと満面の笑みを浮かべた。
「ミトス、ありがとう! キミが来てくれて、本当に助かったよ! ミトスってすごいんだね!」
「う、ううん。そんなこと……」
「謙遜しないで。本当にすごいんだから。エクスフィアも着けていないし、危ないってわかっていたのに、駆けつけてくれたんでしょ?」
思わず横から参加してしまったけれど許してほしい。
だって、驚くと同時に感動してしまったのはわたしも同じだ。さっきも言ったけれど、戦うことを得意としているわけでもないのに、それでも助けたい、と追いかけるのは、本当に勇気がいることなのだ。
わたしも、以前はエクスフィアを着けずに戦っていたからわかる。体は思い通りに動かないし、何かが特別できるわけでもないし。それでも、誰かのために戦いたいと、戦わなければと思って、わたしも駆け抜けてきた。
今思えばかなり無茶をしていたと思うし、ミトスのそれも手放しで褒めるわけにはいかないと思うけれど、その勇気と優しさを無視することはしたくなくて、わたしも笑いかける。
二人がかりで褒めれば、彼も照れくさくなってきたのだろう。さっと頬を染める彼に、ジーニアスは嬉しそうに声を弾ませた。
「ボク、ミトスと友達になれてよかった!」
「……うん。ボクも……うれしい」
「うわっ!?」
二人の微笑ましいやり取りにわたしも頬を緩めた時だ。
突然、わたしたちのすぐ近くを何かが通り抜けていく。続いて風圧。なんだなんだと顔を上げれば、そこにはわたしたちを追いかけてきたのだろう、飛龍の幼体の姿がそこにあった。
一匹ではある、けれど。怪我もしていて、ある程度体力は消耗しているみたいだけれど。大きく吠えて、炎を吐き出すそれに、わたしたちは慌ててハンドルを握りしめた。
「どうしてまだいるの!?」
「先ほどの攻撃を逃れた個体がいたのね」
「仲間を殺した俺たちへの復讐ってところか? ったく、美しい家族愛だこって!」
「ここじゃ戦えない! どこかに降りよう!」
なんて急展開。なんてしつこさ!
空を自由に飛べる飛龍は、わたしたちをなんとしててでも殺したいのか、ひたすらに攻撃を繰り返してくる。
応戦しようにも、ここは上空。レアバードに乗りながら戦闘することなんてもちろんできないし、どこかに降りて、迎え撃つしかない。
どこか、巻き込む人もいなさそうで、ある程度視界の開けた場所は、と探している時だ。その大きな爪が、ミトスに向かって振り下ろされようとしているのが見えたのは。
「ミトス!」
レアバードで勢いよくミトスのところへ突っ込んで、彼の前に出る。
痛い。
彼に振り下ろされた爪が、わたしのわき腹を引き裂いたのだ。
さすがに痛い。こんな直撃を受けたのって、たぶん久しぶり。
その衝撃に耐えきれなくてハンドルから手が離れて、庇いたかったミトスへと倒れこむ。ああ、でも、衝撃もそのままに突っ込んできたわたしのことを、彼も支えきれなかったらしい。ぐるりと視界が回って、空が見える。
……ミトスごと、レアバードから落ちた、のだ。
「……ナギサ、」
小さな、小さなミトスの声がやけにはっきりと聞こえる。
だめだ。一緒に落ちるなんてだめ。痛みに遠のきそうになる意識を必死に掴んで手を伸ばすけれど、ああだめだ、全然レアバードに届かない。
けれど、わたしたちが落ちることを望まない人は、他にもいる。仲間たちが、手を伸ばしてくれる。わたしを抱えるようにしたミトスの手を、ロイドが掴んだ。
「二人とも!」
ぶらんと、足が空中にぶらさがる。
よかった。ロイドがミトスの手を掴んだおかげで、わたしもミトスもなんとか墜落は免れたらしい。このまま彼のレアバードに二人で乗り込みたいけれど、ああ、ごめん。ものすごく体が痛くて、たぶんいっぱい血が出てて、捕まれるほどの力が出ない。
せめてこのままゆっくりと地上に降りたいけれど、わたしたちが今、非常に不安定になっているのが飛龍にもわかるのだろう。こちらに狙いを定めたように何度も襲い掛かってくる飛龍に、ロイドが冷や汗を垂らすのが見えた。
「くそっ、こっちを狙ってるのか」
「ごめん、わたしが……」
「ロイド!」
レアバードをウィングパックにしまって、一人空を飛んだコレットがわたしとミトスをまとめて抱き込む。
彼女なら自由に飛べるし、力もある。そう判断して、ロイドはミトスの手を離した。
「コレット! 二人を頼む!」
「うん!」
どうせ空中では戦えない。
コレットに抱えられながら、わたしたちは地上を目指した。