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ミトスごとわたしを抱えたコレットが、やがてゆっくりと地上へと降り立つ。
さて。その頃にはだいぶ血が出てしまったと言うか、エクスフィアを着けていないときのわたしだったらもう意識を失っていそうな感じ、なのだけれど。これまで頑張って鍛えたり、意識を飛ばしてなるものかと緊張が続いているのか、わたしはくらくらしながらもなんとか気絶せずにいた。
それでも、一人で立つのはちょっと、無理。本当に意識だけがかろうじてあって、体を上手に動かすには、単純に血が足りていない感じ。止血して、少し休めば大丈夫かな。
とりあえず近くの木にもたれかからせてもらったところで、わたしは大きく息を吐いた。

「血が、血がいっぱい……っ動かないで、今、応急処置を、」

わたしよりも青い顔をしたミトスは、治癒術も少しだけれど使えるらしい。小さな光がわたしのわき腹に当てられたけれど、どうしても、いつも受けているリフィルさんのそれと比べると効果は薄い。
それに、とにかく止血を、とコレットが傷口に押し付けてくるタオルも正直痛くてたまらない。まあ、もうここまで来ると何が理由で痛いのかわからないし、応急処置が大事なのは間違いないので、されるがままだ。

「ナギサ、ごめんね、すぐに助けられなくて。大丈夫? ちゃんと意識はある? 私のこと見えてる?」
「ちゃんと見えてるし聞こえてるよ。もう……どうしてコレットが謝るの。わたしが勝手なことをして、失敗しただけ。もう少し上手に助けられたらよかったんだけど……それより、ミトスは大丈夫? 怪我はない?」
「それどころじゃないよ!」

突然強く声を張り上げたミトスに、びくりと肩が跳ねる。
少し視界がぼやけているせいもあるけれど、彼は今、うつむいてしまっているせいでその表情は見えない。けれど、その手が震えていることは、ちゃんとわかった。

「こんなに、こんなに、怪我をして……死んじゃったらどうするの。やめて、お願い、嫌だよ。ナギサまで姉さまみたいにならないで。もうどこにも行かないで……」

震える声でつぶやく彼に、コレットと顔を見合わせる。心配そうにしていた彼女は、やがてこくんと静かにうなずくと、わたしの手をとって、ミトスへと伸ばした。
その意味は、わかる。わたしもしたかったことだ。でも上手に力が入らないし、疲れてしまってできなかったから。コレットの手を借りながら、わたしはミトスをぎゅうっと抱き寄せた。

「大丈夫だよ。怪我したって、もうどこかにいけないよ。それに、みんなが助けてくれたから、元気だよ」

姉さまみたいに、と言った彼のお姉さんが、どんな最期を迎えたのかは知らない。ジーニアスなら聞いているかもしれないけれど、わたしは聞いていないし、聞こうとも思わなかったから、わからない。
でも、この反応からするに、もしかしたから彼女も何かを庇って怪我をして、それが理由で彼を置いて逝くことになってしまったのかもしれない。
だとしたら、申し訳ないことをしてしまったな。知らなかったとはいえ、きっとトラウマになっていただろうに。
せめて、わたしはこのまま死んだりしないよと安心させたくて、ゆっくりと頭を撫でてやれば、彼はやがて強張っていた体から力を抜いた。

「……ごめんね」
「……ボクも、ごめんなさい。それから……助けてくれて、ありがとう」
「なんてことないよ。約束したしね」

君を助けるのは当然だよ、と笑うけれど、やっぱり彼の表情は晴れない。
治癒術もかけてもらって、数枚のタオルを結び合わせて包帯代わりを作ったコレットによって、なんとか血は止まったけれど……やっぱり立ち上がろうとするとふらふらする。

「ボクたちじゃたいした治癒術は使えない。応急処置はしたけど、はやく、はやくリフィルさんのところに行かないと」
「うん。ナギサ、手を貸して。私力持ちだから、抱えられるよ」
「うん……ありがとう」

早くみんなと合流しなくちゃ。二人に何とか支えてもらいながら、わたしはなんとか歩き出した。