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「ユアンに代わりに聞いてくれって頼まれたこと、ちゃんと聞いてきたぜ。ほとんどは、言いたくないって言われたけど……」

少し困ったように、けれどやり切ったぜと胸を張るロイドを見て、自然と肩の力が抜ける。
レネゲード基地から彼らが戻ってきて、テセアラへと戻る途中。わたしは、代わりに聞いてきてと託した質問の答えを持ってきてくれたロイドと二人で並んで歩いていた。
ついさっきまで、ミトスも隣にいたのだけれど、わたしがどうしてもロイドと話をしたいって言ったからか、今はジーニアスと一緒に歩いている。ここまでずっとミトスがべったりとくっつき虫の状態だったことを思うと、ちょっと申し訳ない気持ちになるけれど……なんとなく、彼には聞かれたくないので、許してほしい。
懐いてもらえるのは嬉しいし、悪い気はしないし、わたしも構いたくなるけど、甘やかしすぎはいけないからね。

「エクスフィアはそのまま使っていいってさ。今更それなしで戦うのは無理だろうし、ナギサに死なれるのはとても困るから、あまり無茶をするなって、今回来なかった理由話したら言われた」
「わざわざ怪我したって話したの?」
「詳しいことは言ってないぜ。仲間を助けようとして怪我したから代わりにって言っただけだよ。えっとそれから……ナギサの話を聞いたのは、かつての大切な仲間からだ、ってさ。ここはあまり詳しく話してくれなかった」
「……そっか。いろいろありがとうね、ロイド」
「なんだよ、これくらい……」
「わたしたち……っていうか、ミトスのこと気にかけてくれて」

総督府でのこととかも含めて、と言えば、彼はそんなことか、と笑う。
仲間の気持ちを無視するなんてできるわけないだろ、と。

「別に気にしなくていいのに。なんつーか、俺も反省したからさ」
「反省?」

きっと、これは話すつもり事ではなかったのだろう。彼は言いにくそうに口をもごつかせた後、まあ隠すほどのことでもないからと、ふっと肩をすくめて苦笑した。

「俺達の旅ってどうしても危険なことがたくさんあるし、怪我をするなんて日常茶飯事だったからさ。先生に怪我を治してもらえたらもう大丈夫、なんて思ってたとこあって……でも、違うんだよな。やっぱり怪我をしたり疲れたりしたら、ちゃんと休まないといけないんだ。そうじゃないと、周りの人はあんなに不安になるんだって、忘れてた」

それは、わたしがした反省と同じだ。いつの間にか当たり前になってしまっていたことを、反省する言葉。
……人間は、慣れてしまう生き物だ。それがどんなに拒否していたことでも、なんでも。やがて慣れて、当たり前になって、当然のように受け入れてしまう。
魔物や人と戦うなんて、怪我をするなんて、元の世界ではあり得ないことだった。少なくともわたしは誰かと競い合うのも意見をぶつけるのも苦手で、事なかれに流されていくばかりの人間だった。
でも、ミトスくんとマーテルさんと出て、戦うようになって。怪我なんて当たり前になって。何かの命を奪うことも仕方のないことと割り切るようになって。みんなでぼろぼろになることだって、よくあることになっていた。
そう、当たり前になっていたんだ。怪我をするのも、傷付くのも。
だから驚いて、戸惑った。ミトスがあんなに心配してきたことに、いつの間にか自分の「当たり前」が変わってしまっていたことに。

「……わかってるはずなんだ。俺だって、ついさっき、また誰かの命を犠牲にして生きながらえてるんだって、悔しかった。だからみんな、自分自身を大事にしてほしい。大事にしなくちゃいけない。……そんな当たり前のこと、わかっているようでわかってなかったなって、反省のつもりだったんだよ」

自分を大事にしてほしい。
自分一人が犠牲になればいいなんて、思わないでほしい。
みんなが当たり前に自分らしく生きてほしい。生まれも出自も関係なく、笑って生きてほしい。

わたしたちが願うのは、そんな理想だ。その理想を目指しているのに、傷付くのが当たり前なんて態度、確かによくなかったかもしれない。ううん、多少は傷ついてでも進まないといけないとわかっているけれど……それは、わたしたちを心配する人がいないという意味じゃない。
わたしたちは、わたしたちを大切にしながら、進まないといけない。誰の気持ちも蔑ろにしたくないと願うなら、無理でもやるしかないのだ。

「それでも、コレットに言われたんだ。俺は俺の最善だと思うことをするしかないって。それが、今回はたまたまミトスのためになったって、それだけだよ」
「ロイド」
「ん」

すっと手を伸ばせば、彼は少しだけ頭をかがめてくれる。そうして手に届く位置に降りてきた彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。
少し久しぶり。でも、一年一緒に暮らしていて、なんだかんだと繰り返したこと。これも最初は恥ずかしがっていたのに、今ではこうして自分から撫でやすいように頭を下げてくれる。
こんな風に、当たり前になってしまったことは、そう簡単には変わらない。おかしいとも思わない。それは差別だって同じ。わたしたちが怪我に慣れたように、差別をすることも、傷つけられることも、お互いを犠牲にする世界の仕組みも、全部が当たり前になってしまっている。
それでも、お互いが存在することを許しあいたいって、手探りでも前に進んでいけることも、知っているから。こうして一つずつ気付いて、最善だと思う道を選び続けるしかない。そうして選んだことの責任を持って、歩いていくしかない。

……そうわかっているけれど。実現するのはやっぱり難しい。
だから、それを絶対に選んでみせると、最後まで走り抜けてみせると断言して、それを信じさせてくれるロイドも、すごい。
出会った時も眩しい子だなって、まっすぐな人だなって思ったけど。気付けば飽きっぽいところも猪突猛進すぎるところも身を潜めて、大きくなったなって、そう思う。

「……どんどん大きくなるなあ。嬉しいけど寂しいかな。でも、うん。そうだね。誰かのために、自分を大事にするって、大事なことだよね」

頑張っていこう。頑張って、変わっていこう。変えていこう。
わたしたちは顔を合わせて、くしゃりと笑った。