81-3

「……子供って、誰かと誰かが愛し合ったから生まれるんだと、思ってるんだけどな」

オゼットを後にしてから、思わずそうつぶやいてしまったのは、きっとちょっと、後ろ向きの気持ちになってしまったからだ。
誰かと誰かが出会って、誰かと誰かが恋をして。
一緒に暮らしたいと、一緒に生きたいと思って、愛し合って。
そうして生まれてくるのが子供なのだと、漠然としたイメージを抱きながら生きてきたのだけれど。この世界にいると、自信がなくなってしまって。悲しい気持ちになってしまったから、なのだと思う。

種族の壁を乗り越えてでも、確かに愛し合って生まれた、愛すべき子供のはずなのに。一度生まれてしまえば、実の親からすら、ハーフエルフは疎まれる。処刑することに躊躇いもなく、切り捨てられる。
たとえ倫理に反していると思っても、それでもようやく望んでもらえたからと、愛してもらいたい一心で実験に加担する生き方を選んだのはケイトさん自身だとしても、その選択をしなければならないほど彼女を追い詰めたのは、この世界に当たり前に存在するハーフエルフへの視線も理由の一つだ。
あの親子の形を見ると、どうしても、もどかしくなる。大好きな人と一緒に、大好きな人との愛の形を守り、育て、愛したいと思ったから、子供を産む……愛されて、愛して、そうして……一緒に未来へ歩くのが、きっと本来みんなが望む家族の形だと思うのに。

「ハーフエルフだって、望まれたから生まれたはずなのに」
「望まれて、ねえ」

わたしのつぶやきを拾っていたのだろう。隣を歩いていたゼロスくんが、鼻を鳴らすように口を開く。
嘲るような声色は、少し彼らしくないような気がしたけれど。彼にとって、ハーフエルフへの評価は生まれた時から当たり前にあるものだ。悲しいけれど、この反応は当然のものなのかもしれない。

「別に、すべての命がその通りというわけじゃないだろ。産まなきゃいけないから産んだ。それが生きる上でどうしても避けられなかった。だから、愛も情もなく、意味も祝福もなく産まれた命だって、当然あるはずだぜ」
「そう……なのかな」
「そうだぜ。それに……あー、女の子であるナギサちゃんにこれを言うのは、ちょっと気が引けるけど……子供を授かるかどうかなんて、ぶっちゃけ運みたいなものだろ。望まぬ行為でだって、できるときはできる」
「そ、れは……うん。それは、そう、だね」
「だから、生まれた時点で世界に祝福され、誰かに望まれる……なんてのは、当たり前でもなんでもないのさ」

その言葉が意図するものをわからない年齢でもない。そして、望まぬ結果があることも、確かに理解している。
貴族って、自由恋愛の結婚はできないイメージだし、神子という立場にいる彼は、もしかしたらそういう事例も多く見たのかもしれない。だからこそ、わたしが言った言葉が子供みたいな夢物語だと思って、嘲笑したのかもしれない。

「……でも、それでそうだね、で、終わりにしたくはない、かな」

でも、でも、だからって、じゃあ仕方ないね。残念だね。生まれたことを後悔しながら生きてね。なんて結論に至ってはいけないと思うのだ。
生まれてしまったのだから。生きているのだから。もうその命は幸せになる権利がある。いろんな人に出会って、愛されて生きたっていいはずだ。
生まれたことに、正解も不正解もないはずなんだから。そんなことを決められる人なんて、世界中のどこにもいないはずなんだから。

「確かに、生まれた時は、みんなに祝福されるわけじゃないかもしれない。でも……生まれた後。その子が頑張って大きくなっていくその過程で、誰からも祝福されないなんてこと、絶対にないって、信じたい」

生まれた時に全部が決まってしまうわけじゃない。どんな生き方をするのか選ぶのは、他でもない自分自身だ。
だから……みんな、幸せになっていいのだと、信じたい。

「少なくとも、わたしはハーフエルフのミトスくんとマーテルさんに会えてうれしかった。二人が生まれてくれたことに感謝した。ジーニアスとリフィルさんもそう。生まれてきてくれて、わたしと出会ってくれて、本当にうれしい。……これは、何もハーフエルフだけじゃないよ。人間もそう。ロイドも、コレットも、しいなも、リーガルさんも、プレセアちゃんも。……ゼロスくんだって。わたしと出会ってくれてよかったって、そう思ってるんだから」
「それは……また。とんだ口説き文句だ。さすがはロイドくんのお姉さまってね」
「別にロイドは出会った時からあの調子だよ。相手が誰であろうと、相手個人を見て、相手がほしがるような、あんまりにもまっすぐで眩しい態度で距離詰めてくる」
「はは、違いねえや」

ふは、と笑いだしたゼロスくんは、さっきまでの嘲笑するような声色ではなくて、心から同意する、という気の緩さを感じてほっとする。
よかった。なんとなく、怖かったから。笑ってくれて安心した。ありがとう話題になってくれたロイド。

「ゼロスくん、だいぶロイドのこと好きだもんね。わかるよね」
「おー、それはもう……って、なんで俺さまがロイドくんのこと大好きって扱いなのよ」
「えっ違うの?」
「いや嫌いではねーけど」
「だよね。よかった」

いつも仲良さそうだし、あの子の隣にいる時は結構気が緩んでる顔してるし。これで違ったらわたしの見る目がなさすぎると落ち込むところだった。
ほっと胸をなでおろすわたしを見て、ゼロスくんはなんとも言えない複雑そうな顔で唇を吊り上げた。

「……ロイドやコレットとは別の意味で調子狂うぜ」