「……大事ないか? ジョルジュ」
「はい……リーガルさま」
「おい……会長ってどういうことなんだ?」
ジョルジュさんの手を引いて起こすリーガルさんに、ロイドがそう問いかける。
さっきも会長自ら……なんて言葉が聞こえてきたし、鉱山のロックにリーガルさんがどうこうとか、やたらと親し気なジョルジュさんとリーガルさんの様子とか。ここに来てから疑問が尽きない。
でも、でも。さすがに何もピンとこないほど、鈍くもない。彼の人となりを思えば理解もできる。でも、これまで彼が自身を罪人と言い続けてきて、今もなおその手に嵌まる手枷のせいで、うまく結びつかない。
「私はリーガル・ブライアン。陛下より公爵の位をいただいた、レザレノ・カンパニーの会長だ」
背筋を伸ばして、そうはっきりと名乗ったリーガルさんに、はっと息を飲んだ。
動揺していないのはゼロスくんだけだ。だがそれも、リーガルさんにとっては想定の範囲内らしい。驚いた様子もなく彼を視界にとらえると、やはりなと目を伏せた。
「神子は……ご存じのようだが」
「前に王女の誕生パーティーで見かけたな」
「そうか……忘れてたけど、こいつも上流階級の人間だったよ」
「うひゃひゃ」
貴族制というものに馴染みがないから忘れがちだけど、神子って、王様に次ぐ地位を持っているらしいし、言われて見れば王女の誕生日パーティーくらい呼ばれて当然だ。
なるほど。だからレザレノ・カンパニーのあるアルタミラに入るのを避けたリーガルさんのことを、あの時のゼロスくんは助けたのか。
「……じゃあ、アリシアの仇のブライアンって」
「あ、あれ? もしかして、リーガルさんが……?」
わたしたちが結論を出す前に、アリシアさんの墓石にはめ込まれたエクスフィアが一際強く輝きだした。
光は以前と同じように、ゆっくりと人の形を作っていく。その名前を、リーガルさんが叫んだ。
「アリシア!」
再び姿を現したアリシアさんは、リーガルさんを見て……本当に、心から嬉しそうに表情をほころばせる。
それはとても、自分を殺したブライアンを見るような表情ではなかった。
───リーガルさま。消えてしまう前に、お会いできてよかった……
「すまなかった。死してなお、それはお前を苦しめているのだな……」
───いいんです。リーガルさまは悪くない……
「アリシア……どういうことなの……?」
あなたは彼に殺されたのではないの、と困惑するプレセアちゃんに答えたのは、アリシアさんではなく、リーガルさんだ。
彼は、はっきりと自分と彼女の関係を語り出す。そして、ジョルジュさんがその隣で申し訳なさそうに項垂れた。
「アリシアと私は愛し合っていた」
「それを執事である私が出しゃばり……無理やり引き離してしまったのです」
公爵の地位をもらったリーガルさんと、奉公に来ただけの少女。
二人が惹かれ合っているのを見て、穏やかでいられなかった人は、きっとジョルジュさんの他にもいたのだろう。
二人を引き離そうとした人たちによって、アリシアさんは、エクスフィアの実験を……きっと、クルシスの輝石を作る実験をおこなうための素体を探していたヴァーリに引き渡されたのだという。
それでも本当にリーガルさんは彼女を愛していて、自分が所有する鉱山を引き換えにすることでアリシアさんを取り返そうとしたけれど……戻ってきた彼女は……もう、彼女の姿をしていなかった。
実験は失敗した。怪物のような姿になって戻ってきた、という彼女の姿は、きっとマーブルさんやクララさんと同じものだったのだろう。
エクスフィアが暴走した、家族ではうまくいっているのに彼女は適合しなかった、とヴァーリは言った。
おぼろげな意識の中、彼女は言うことの効かない体でリーガルさんを攻撃しながら、彼に願った。
……自分を殺してほしいと、願った。
愛しているからこそ、と。そう願った彼女を、リーガルさんは……
───リーガルさまは私を助けるために、私を殺してくれたの
唇を噛んで、噴きあがってくる悲しみを堪えるようにうつむいたリーガルさんの言葉を引き継いだアリシアさんは、ただ静かにそう話した。
これは自分が望んだことだと。最期の望みを、愛する人が叶えてくれたのだと。
───最後に会えて、本当によかった。もう思い残すことはないわ。だからリーガルさま。どうかもう、自分を責めるのはやめて
「アリシア……しかし私は……お前を……」
───私はもうすぐ消えてしまうから。私に心配の種を残させないでください。その手の戒めがなくても、リーガルさまは十分に苦しんだはずです
アリシアさんが手を伸ばして、リーガルさんの手枷に触れようとするけれど、当然その手はすり抜けてしまう。だから、リーガルさんもうなずかない。それでも殺めてしまったのは事実なのだと、傷口を埋めることを許さない。
「……私は、愛するお前を手にかけた。これは私の罪の象徴であり罰だ」
───……そんな罰、もういりません。お願い……リーガルさま
お互いのことを、今も思いあっているはずなのに。もう触れ合えない生き物になってしまったせいで、いつまでも微笑み合えない二人の後ろで、エクスフィアは変わらずに輝いていた。