メルトキオの市街へ出て、精霊研究所を目指している時だ。
その、見覚えのある姿を見かけたのは。
「……クラトスッ!」
まるでわたしたちを待ち構えるかのように立っていたのはクラトスさんだ。
少し懐かしい、わたしたちと旅をしていた時と同じ服を着た彼は、そのまままっすぐプレセアちゃんへと近付いてくる。
……ロイドを無視する形になっちゃったので、彼はちょっと怒ったのだけれど。それに気付かない人ではないだろうに、ロイドの方へ視線を向けることもしなかった。
「神木は……オゼット近隣にしか生息しないと聞いたが、間違いないか?」
「は……はい……」
「では、もう神木は存在しないことになるな」
「……私が伐採したものが教会におさめられています」
「やはりそれだけか。……やむをえんな」
聞きたいことは聞けたとばかりに、そのまま立ち去ろうとする彼を、ロイドが今度こそ呼び止める。
立ち止まってくれたその人は、相変わらず感情の読めない表情でロイドを視界に収めた。
「待てよ! クルシスの連中が、どうして神木のことなんかを気にするんだ」
「必要だからだ。他に理由があるか?」
「なんのために!」
まったく情報を教えてくれないクラトスさんに、ロイドは声を荒げる。らしくない。でも、たぶん、仕方がないと思った。クラトスさんのことをどういう目で見ればいいのか、わたしたちもわからないから。
彼が裏切り者で、クルシスの一員なのは間違いない。剣も交えた。でも、コレットが誘拐された時といい、どうにもこちらを気遣うような態度を見せることがあるのも事実だから。情報を流して誘導していると取れなくもないけれど、助かったことがあるのも、本当のことだから。この人がいったい、何を考えて行動しているのか……読み切ることができない。
だからきっと、ロイドは本当は、クラトスさんのことを信じたいのだろう。裏切り者なんかじゃないって、敵じゃないって、思いたい。……もちろん、それが叶うような状況ではなくて、間違いなく彼を信じてはいけないこともわかっているからこそ、彼はらしくなく苛立っている。
それがわかるから諫めることもできずに、わたしたちは二人のやり取りを見守るしかない。
「今はお前に話す必要を感じない。それよりもロイド、お前たちがおこなっている精霊との契約は……やめるのだな」
「……言われてやめると思うのか!?」
「どうなってしまうのか予測のできない行為は危険だ。取り返しのつかない事態になるやもしれぬ」
「それでも! 世界を同時に救う方法が他にないなら、やるしかない!」
「……焦るなよ、ロイド」
それだけを言って、クラトスさんは今度こそその場を立ち去る。
今度は、ロイドも彼を呼び止めることはしなかった。……いや、できなかった。
焦るなよ、と言った声が優しかったことに、驚いてしまったから。
「……どういうことだ?」
「ロイドのこと、応援してるのかな」
「それはないだろ……」
ぽかんとするロイドに、コレットがふんわりと笑いかける。
さすがにそれは楽観的過ぎる……とみんなも苦笑したけれど、もしかしたら、あまり間違えていないのかもな、とも思った。
クラトスさんは、旅をしていた時もだけど、やたらとロイドを気にかけているように見えたから。剣の稽古を着けていたから、弟子のように思っていたのかもしれない。焦るなと伝えたのは、まだその情が残っているからなのだろうか。そうしたら、本当に応援、しているのかもしれない。
……やっぱり、甘く考えすぎかな。
「今の会話でわかることは、クルシスも現段階では、マナの楔を抜ききった時のことを予測できていない、ということね」
「そうだな……でも、やるんだろ?」
試すようなゼロスくんの視線に、ロイドは当然だと力強くうなずく。
何が起こるのかわからなくても、だからといって立ち止まったりはしない。
二つの世界を救うために今できることをする。
その信念が変わらないのを見て、ゼロスくんは満足そうに笑った。