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「フリーパス、せっかくもらったのに使わないのはもったいないな〜って思ってたんだよね」

そう言ってミトスを連れてきたのはアルタミラだ。
以前、来場者数記念としてもらった記念パスを使うなら今でしょ、ということで。もしももうここに戻ってこられないなら意味のない紙きれになっちゃうし、ちゃんと使わないともったいないし、と言い訳を並べて彼の手を引いてレアバードを飛ばして数分。
最後の思い出になっちゃうにしろ、ただの思い出の一コマになるにしろ、一緒に楽しい時間を過ごしたい……なんて。直接言うのはちょっと恥ずかしくて、こうして連れ出したわけだけれど。こちらが見ていてわかるほど緊張した様子で、ぎこちなく隣を歩くミトスに、わたしは苦笑してしまう。

「だから、その……二人でっていうか、三人でって、思ったんだけど。ごめんね。たぶん、あとからふざけて付け足したデートって言い方が悪かったみたい」
「う、ううん。たぶん、ボクに気を使ってくれただけだから。ナギサが気にすることじゃないよ」

当然だけど、このおでかけにはジーニアスも誘っていた。宿泊券はペアチケットだけど、別にお泊まりする必要はないし、三人で遊園地で遊べたらな、って思っただけなのんだ。
でも、ジーニアスには断られてしまった。ミトスと二人で行かなくちゃだめだよと、やたらと興奮した様子で言われた。ジーニアスだってミトスと一緒にいたいはずなのに、何を遠慮しているのか。
デートなんて冗談だよと言っても、赤くなった顔でぶんぶんと首を振って、この後リフィルさんと一緒にいるから大丈夫とか、せっかくのペア宿泊券なんだからミトスと二人で泊まらないともったいないとかなんとかかんとか。
弁が立つからと丸め込まれてしまったわたしもどうかなって思うけれど……そのわりにはミトスに何かを一生懸命に話しかけていたし、名残惜しかったんじゃないかなあって、思うんだけど。

「……いいの? ナギサは、その……」
「それはどちらかというと、君をジーニアスから引き離しちゃったわたしが聞きたいな。二人だけで遊ぶことになっちゃったけど、いい?」
「それはもちろん! ……ボクを誘ってくれて、うれしいよ。その……アルタミラで遊ぶのって初めてだから、緊張しちゃって。ボクでいいのかなって」

頬を赤らめながら視線をうろつかせるミトスは、本当に緊張しきっているのだろう。ちょっと可愛いなって思ってしまったのは、年上としての余裕……も、あるのかもしれない。
でもたぶん、普通に。それ以上も以下もなく。ミトスだから可愛いと思うんだろうな。ロイドやコレットたちが相手だったら、微笑ましいとか、そう思うのが優先で。可愛いって思うの、最後の方になるような気がする。
可愛いな。もっとこういう表情、見ていたいかも、なんて。これ以上は意地悪なお姉さんになって嫌われそうなので、言葉にはしない。

「ミトスがいいんだよ」

だから代わりに、素直にそう答えた。
ミトスの手を取って、その綺麗な瞳を覗き込んで。他の誰でもない、君がいいんだって、心のままに言葉にする。

「君と。別に意味もなくさ。楽しいって時間、共有したかったの」

それで笑ってくれたらすごく嬉しい。
そう。わたし、君に笑ってほしいんだ。他の誰でもない君に。
あんな泣きそうな顔じゃなくて、笑っている顔が見たい。
ミトスくんのことをまったく思い出していないと言えば嘘になるけど。それでもさ、今、笑ってほしいのは、寂しい気持ちになってほしくないのは、目の前にいるミトスだから。
すごい単純だけど、わたしに好意を向けてくれる彼のこと、わたしもかなり好きだから。いっぱい笑って、楽しいって気持ちでいっぱいになるような時間を、一緒に過ごしたかった。

そう素直に伝えれば、彼はいっぱいに目を見開いて。それから、ゆるゆると泣きそうに、ちょっと不格好に緩んだ頬をぐっと引き締めて。わたしが掴んだ手をぎゅっと握り返してから、ふんにゃりと、あどけなく。愛らしいと思う笑顔で、笑った。

「すごく、うれしい」