86-3

美しい青空を背景に、二人の光の精霊が溶けていく。
約束通り現れてくれたアスカとルナとの戦いを終え、再び精霊の形を作る光を眺めながら、わたしたちは自然と高鳴る心臓の鼓動を感じていた。

「あなたを認めましょう。さあ、誓いを立てなさい。私との契約に何を誓うのです」
「大いなる実りの発芽と、二つの世界の真の再生を誓う」
「いいでしょう。私たちの力を、契約者しいなに」

契約完了のしるしである、宝石のついた指輪が、しいなの手に落ちる。
ユアンとクラトスさんが祭壇へと姿を見せたのと、それが起きるのはほとんど同時だった。

「……やったか!」
「しまった!」

大きく、世界が揺れる。地震だ。これまで精霊の楔を抜くたびに起きてきた地震より、もっとずっと大きな揺れが襲い掛かってくる。
この古い建物なんて崩れそうなほどの揺れに思わずしゃがみこめば、東の方で何か大きな光が立ち上るのがわかった。……だからって、そんなことを気にしていられるほど、優しい揺れじゃないんだけど!

「こ、ここにいたらやばいんじゃない!?」
「みんな! 急いで降りよう!」

ミシミシと嫌な音が聞こえてきて、わたしたちは慌てて階段を駆け降りる。
地面が揺れているうちに行動するのは危ないけど、このままここにいるのも危険だ。それなら、すぐにでもここから離れた方がいい。

「うわっ!?」

階段を下りる途中で、何かが壁を突き破ってくる。
攻撃、ではないと思う。この後に続くものはない。けれど突然のそれに驚いて、わたしの体は大きくよろけてしまう。やば。ここ、まだまだ上の方なのに。
この状況で階段から落ちたらどうなっちゃうんだろう……そう身構えたわたしの腕を、後ろにいたゼロスくんが掴んだ。

「ナギサ!」
「だ、だいじょうぶ、ありがと……」

ちょっと泣きそうになりながらお礼を言って、体勢を整えてから再び階段を下りる。
その際、今壁を突き破ってきたものを乗り越えることになるんだけど……それは、カサカサとした木、のようなものだった。
そのどこか不健康そうな白さは、先日見た再生される前のリンカの木に近い気がする。当然、あれはこんなに大きくなかったけれど。

「これは……木!?」
「はやく逃げるぞ!」
「うん!」

こんなに地面を揺らして、守護塔の壁を突き破ったにしては何故か生命力を感じないそれは、たぶん、今もまだ成長途中なのだろう。乗り越えたあたりで再びそれは動き出して、ぐねぐねと蠢いては守護塔の壁に絡みついていく。
なんだか、パニックホラーの映像でも見ている気分だ。ばくばくと心臓が嫌な音を立てるのを聞きながらなんとか外に出て守護塔を見上げれば、それはもう、上から下まで太い木に絡みつかれていた。
これは枝や幹というより、木の根、だろうか。まるで守護塔を己の養分にするかのように絡みつくそれが動くたびに、みしみしと守護塔は軋み、地面が揺れる。

そちらを振り返ったのは偶然だった。
どちらの世界にいても、方角を確かめるのにちょうどいいからって、それを探してしまう。そんな癖がついていたから、自然と目がそちらを向いてしまったのだと思う。
救いの塔。
再生と繁栄の象徴。
天へと延びる大きな塔のある方角に、何かがある。
大地が揺れるほどに巻き起こる大きな土煙で、その全体像はよく見えない。ただ、その向こうに大きな影がある。とても大きな何かが、大地を引き裂くように這い上がっている。
あれは、木、なのだろうか。この守護塔を覆いつくした木の根の本体なのだろうか。その真ん中に、誰かが……何かが……いるように見える。遠くてよく見えないけれど。それは人の形をしているような。見覚えがあるような。
どくどくと脈打つ心臓が、得体の知れない状況に戸惑い震える体が、目の前のことを上手に飲み込むのを邪魔していて、たった一言をつぶやくので精いっぱいだった。

「あれは……大樹……?」

大樹が、発芽する。
……マナを生む大樹とは名ばかりの、怪物のようなそれが、天を覆った。