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どうしてこんなことになったのだろう。
精霊の楔を抜けば。マナの流れを分断させれば。きっと、世界は今よりよくなると信じていた。
今もまだ地響きが聞こえる。今も、あの暴走した大樹が大地を飲み込んでいる。そこに住む人も、何もかもを飲み込んで、大樹が世界を滅ぼそうとしている。
二つの世界をきっと解放できると……そう、信じてきたのに。わたしたちの行動を理由に、世界は滅びようとしている。

「……みんな……死ぬんですね……」
「あの歪んだ大樹と、デリス・カーラーンに住む天使以外はな」
「そんなのだめ!」

理由はわからない。でも、マーテルさんと融合しかかった大樹が世界を滅ぼしたら……それは、マーテルさんが世界を滅ぼしたことと同義になってしまう。それだけはだめ。絶対にだめ。
優しいあの子に、世界を滅ぼさせるなんてこと、させるわけにはいかない。
だから考えなくちゃ。どうにかする方法を。今からでも大樹の暴走を止める方法を。絶対にあるはずの、希望を考えなくては。

「なんとかしないと! マナの照射を止めるとか、もう一度精霊の力を借りるとか、そういうことはできないんですか!?」
「ユアン。きさまは……この始末、どうつけるつもりなのだ?」

リーガルさんにも睨まれて、ユアンはぐっと奥歯を噛む。
それから、苦々しそうに口を開いた。
今からではもう遅い、と。

「……マナの流れを切り替えて、照射を止めることはできる」
「しかしそれではあの大樹をおさめることはできない。賽は投げられたのだ」
「テセアラでも、あの大樹は同じように暴走しているのか?」
「いや、それはなかろう。影響を受けて、地震程度は起きているだろうが……」

ゼロスくんの問いへの返答を聞いて、リフィルさんが指を顎に当てる。
彼女も必死に頭をまわしているのだろう。そして、こんな時だからこそ、冷静に考えないといけないと自分を律しているのだ。
リフィルさんは努めて冷静な声色で、そうね、とうなずいた。

「……おそらくコレットの世界再生によって、シルヴァラントの精霊が活性化しているはず。だからシルヴァラントの精霊に引きずられて、こちらで大樹が暴走しているのよ」
「それは正しい。精霊たちはそれぞれ陰と陽の二つの役割を、神子の世界再生によって交代で受け持っている。現在、陽であるマナの供給を担当しているのがシルヴァラントの精霊だ。だからこそ、大樹はマナの過摂取で暴走しているのだろう」
「……だったら、相反するもう一方の精霊の力をぶつければ、中和されるんじゃないか?」

ロイドのひらめきに、ジーニアスが驚きの声をあげる。

「……ロ、ロイド!? 意味わかってる?」
「馬鹿にするな! 前に先生が磁石のプラスとマイナスは中和されるって言ってた。そういうことだろ?」
「ロイド! ちょっと違うけれど、あなたにしては冴えてるわ」

そうか。磁石のくだりはちょっとわかりづらいけど、光と影、陰と陽。ゲームの属性システムで常に相反する対極にあり、常に互いの弱点になっていた関係と同じだと考えればわかりやすいかもしれない。
ようするに、今、あの大樹はシルヴァラントの精霊のマナによって活発化している。そこに、相反するテセアラの精霊のマナをぶつければ、互いに融和してバランスの取れた穏やかな状態に戻り、おとなしくなるかもしれない、ということだ。
だとすると、次の問題は……

「仮に、テセアラ側の精霊をぶつけるとして、どうやってぶつけるんだい? あんな風に暴れてる大樹の足元までは近寄れないよ」

そう。しいなの言う通り、問題は近寄ることができないということだ。
いつまでも地響きはやまないし、ここから見ても大暴れ中のそれは近付くだけでも危険だ。
であれば、遠くから撃ち込める方法が必要になる。でも、いくら精霊でも、マナをそんな遠くに放つことはできないし、何か彼らのマナを集めて照射するための媒介か何かがないと難しいだろう。
たとえばこう、機械とか兵器みたい詰め込んで……と考えたところで、ハッと思い当たった。

「……魔導砲とか、使えるんじゃない?」

絶海牧場でロディルが作っていたそれ。
実物を見たわけではないから推測混じりだけど……彼がそれを使って救いの塔を壊そうとしていたことと、その名前からして、おそらく遠距離から強烈な攻撃を行うことのできるものだと思う。
それは、今わたしたちが欲しい手段と同じもののはず。

「魔導砲って、あのロディルが作っていたという機械ですか?」
「ロディルはそれを使って救いの塔を壊すって言ってた。ボータたちはそれをマナの照射に必要だって言ってた。つまり、魔導砲を使ってテセアラ側の精霊のマナを照射することもできるんじゃないですか?」

たぶん、魔導砲に使う砲弾はマナそのものだ。
そこに、テセアラ側の精霊のマナを注いで撃ち込めば、遠くからでもマナの照射は可能なはず。
そうですよね、と確認するようにユアンとクラトスさんに問えば、二人はこくりとうなずいた。

「……その通りだ。あれはもともと、我々がロディルを利用して作らせていたものだ。精霊の守護が解ける前は、ロディルに救いの塔を破壊させて、直接種子に近付くつもりだった」
「確かに。それしか方法はないな」