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先に脱走していたという、牧場の外で散り散りになっていた人たちを保護しながら、わたしたちは牧場の外でロイドたちの帰りを待つ。
今この間にも、大樹は暴走を続けている。それでもこの辺りは地盤が強いのか、感じる地響きは守護塔の近くよりずいぶんと小さいものだ。
遠く、大樹の方角を見る。……あそこにいるマーテルさんのことは、結局何もわからないままだ。きっと、この後聞いたところで、クラトスさんもユアンも何も語りはしないだろう。
結局詳しいことは何もわからないまま。この後、どうするかもわからないまま。今も、何もできないまま、ただそこに立っているだけで……わたしは、どうしたらいいんだろう。再会できるかもしれない彼女に、何をしてあげられるんだろう。

そんなことを考えていれば、やがてロイドたちが外に出てくる。
みんな怪我はなさそうだ。無事に魔導炉を停止することができたのだろう。
そのことにほっとしながら、外に出てきた四人を出迎えた。

「ロイド! みんな! ……無事でよかった!」
「ああ! あとはしいなに連絡を……」
「そうは……させん!」

呻くような声がしたかと思うと、ロイドが悲鳴を上げて倒れこむ。
彼の背後、牧場の出口。そこに立つ男のことを、わたしはちゃんと覚えている。
……フォシテスだ。この牧場の主。
どうやら直前にロイドたちと戦って敗北したようで、その体には大きな傷が残っているし、今もまだ血は止まっていないし足取りも怪しい。けれど、その状態でも瞳から戦意は失われていないようで、彼の機械が取り付けられた右腕からは硝煙がのぼっている。
ロイドの背中に攻撃したのは彼だ。その腕から何かを発射したのだろう。
急いで身構えるわたしたちに対し、その傷の深さでも立っているのは、きっと彼の意地だ。

「私も、五聖刃と呼ばれた男……ただでは……死なん! 劣悪種どもも道連れにしてやる!」
「ディザイアン一の英雄うたわれたお前が、そのような末路をたどるのか。フォシテスよ」

フォシテスを警戒して武器に手を添えるクラトスさんを見て、彼は目を細める。
それから、はは、と、息も絶え絶えなまま、傷ついたように笑った。

「……そうか。わかったぞ。人間風情でありながら、魔力の匂いを漂わす者! お前が……クラトスか!」
「それがどうしたと」
「ユグドラシルさまのご信頼をうけながら……やはり我らを裏切るのだな! だから人間など……信用できぬのだっ!」

再び武器を構える、その泣きそうな顔を見て。
わたしは、あの戦場でわたしを後ろから攻撃した、ハーフエルフの子供を思い出した。
さんざん傷つけられてきた、子供の顔。信じたいのに何も信じられない、苦しくて苦しくてたまらない、あの表情。

「だめ!」

急いで帯をしならせて、フォシテスの体を打ち付けた。彼の体は大きくよろけて、腕が下がる。だが、彼の執念は止まらない。がむしゃらに腕を持ち上げたかと思うと、相手も見ずにそのまま打ち出した。
誰に当たったって、構わない。誰か一人でも倒せるなら。そんな執念で攻撃を放った彼の照準は……ショコラさんへと、向かう。
だが、それが彼女を傷付けることはなかった。彼女を庇うように飛び出したコレットが、その身で受け止めたからだ。

「……ああっ!」
「コレット!」
「こいつっ! ゆるさねえ!」

倒れたコレットに駆け寄って、慌てて抱き起こす。
あまり深い傷ではなさそうだ。けれど、服が破けてしまって、その下にある肌が見えて……そして、息をのんだ。

「コレット、これは……」

彼女へ問いかけようとした言葉は、後ろから聞こえてきたフォシテスの最期の慟哭によってかき消された。

「ユグドラシルさま! 我ら、ハーフエルフの、千年王国を必ずや……!」