はっと、自分の声に驚いて目が覚める。
急に浮かんだ意識が気持ち悪い。初めて心臓が動き出したみたいにバクバクと鳴っていて、はあっと大きく息を吐き出した。
体が重い。体中が痛い。ここはどこだろう。一度視線だけで辺りを確認して、なんとなく見覚えがあるような気がして心の中で首を傾げる。
観葉植物とか、全体的にピンクっぽい装飾とか……どこだっけ。そんなに昔じゃなかった気がする。
とにかく覚悟を決めて起き上がると、体のあちこちがズキリと痛んだ。
あ、そっか。わたし、怪我を……あれ、なんで生きてるの?
「お目覚めですか」
渋い声がかけられて体が強張る。でもいきなり動いたら体が痛いから、ゆっくりとそちらへ振り返った。そこに立っていたのは、トリエットやアスカード牧場で見たディザイアン……ボータ、だ。
どうしてここに。まだ動かない方がいい、と再びベッドに戻されて、誰かを呼びつける。現れたのはやっぱりディザイアン。けれど、その人はわたしに杖を向けて、攻撃術ではなく治癒術をかけてくれる。
どうして? 何故、ディザイアンに傷を治されているの?
「なんで、ディザイアンが……」
「我々はディザイアンではない」
「は……?」
「我々はレネゲード。ここはあなたも捕らえられていたことのある、トリエットの基地。そして我らはディザイアン……クルシスに対抗する組織だ」
状況がわからない。ディザイアンだと思っていた彼らは、レネゲードという違う組織で、クルシスに対抗する組織で、だからわたしを助けてくれている?
そういえば、救いの塔で聞こえた声はボータのものだったような気もする。でも余計にわからない。ここがあの牢屋がある場所なら、あの時は処刑だなんだと言っていたくらいなのに、どうして今度は助けてくれるんだろう。
ちらりと見た部屋の中に、ロイドたちはいない。
「あの、コレット……ロイドたちは!?」
「別室で休んでいる。そのうち起きてこちらに来るだろう。……思ったより元気そうですな。それなら、リーダーの所へ来てもらいたい」
ボータはそう言ってわたしの手を引いて起こしてくれる。気を使った優しい力だ。……いい人なのかも、ってそれだけで思ってしまうから単純だ。
近くに畳んであった帯を手渡されて、わたしはぎゅっとそれを抱きしめた。よかった、これは、ちゃんと傍にある。動くとあちこち痛かったけど、帯を抱き締めることでそれを我慢した。
ボータの後ろを歩きながら、気を抜くことも出来ず背中を睨む。よくわからない。敵なのか味方なのか。悪い人では、ないのかもしれないけど。
「……あれ? これ……」
ふと、自分の右手の甲に何かが埋まっているのに気付いた。
ささやかな装飾と共に光る宝石。これは……エクスフィアだろうか。
でも何故。わたしはエクスフィアなんて装備してなかったのに。いつの間につけられたのだろう。それにこの、碧の綺麗な石には、見覚えが、あるような。
「来たか」
声をかけられて、はっと意識を引き戻す。
連れてこられたリーダーの部屋にいたのは、以前ロイドと脱走した時に遭遇した男だった。
「ユアンだ。ユアン・カーフェイ。あなたは天織なぎさで間違いないか」
「あ、はい。そうですけど……?」
じっと、以前ロイドにしたようにこちらを見つめる。
なんだか気まずい。無意識に右手の石を撫でれば、突然現れたそれを気にしてると思ったのだろう。説明してくれた。
「……あの場で一番重傷だったのはあなただ、治癒術や医学だけでは助かりそうになかった。だから、勝手ではあるがエクスフィアを装備し、治癒能力を引き上げさせてもらったのだ」
「あ、だから……」
「しかし、自分でもわかるだろうが、まだ本調子には程遠い。しばらく戦闘は控えるんだな」
「え、あ、ありがとうございます」
「それからそのエクスフィアは、私の大切な人のものだ。無くすなよ」
「え、なんでそんなものを……」
「あなたには、使う資格がある」
一方的に情報だけ渡されても理解が追い付かない。
というか、会話のキャッチボールをしてくれないだろうか。さっきから向こうの言いたいことだけを伝えられても、わたしはちんぷんかんぷんだ。
「あの……ええと。状況が、よく……わたしが今こうしているのは、あなた方……えっと、レネゲードがエクスフィアを貸してまで治療してくださったからなのはわかります。でも、何故わたしたちを助けたんですか?」
「まずはこちらの質問に答えてもらおう。あなたはテセアラでもシルヴァラントでもない世界からやってきた。間違いないか?」
ドキリとした。
なんでそんなこと知っているのだろう。そのことは、旅をしていたみんなにしか話していないのに。
「……何故?」
「理由は伏せる。一つだけ答えてくれればいい。あなたはかつて、古代大戦時代と呼ばれる時代に存在し、死んだはずだ。何故ここにいる」
「……あなたの言う天織なぎさとは別人か、時間を越えたか。それ以外にありますか?」
少し挑発的に言えば、ユアンはくつくつと笑う。
それも想定通りだ、とばかりの態度にもやりとしたが、情報が足りず攻撃もできないのはわたしの方だ。変に刺激するのはよくないと思って、一度黙る。
「ふ……確かに。実質二択だな。その返答はこちらを警戒しているか、自分でも理由がわかっていないか、そのどちらかといったところか」
「そもそも、わたしにだけ話をさせるって卑怯ですよ」
「……話を聞いていたのだ」
「話を?」
誰から聞いたのだ、と問えば、彼は一瞬……ほんの一瞬だけ。愛おしそうな、悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべて。
けれどすぐにそれらを消し去ってしまうと、それは言えぬ、と目を閉じた。
「勇者ミトスの文献にあたったことはあるか?」
「いえ……?」
「読んでみるといい。勇者ミトスを最初に奮い立たせた、異世界の女性について話した供述が残っている」
え、と間抜けな声が出た。
……勇者ミトスの文献なんて読んだことない。イセリアにあった簡単な歴史書には、最初にロイドから聞いた以上の情報は乗っていなかったから。旅の途中で見かけた文献とか資料も、ミトスくんなのかはっきりしないせいもあって、なんとなく敬遠していたから。
でも、そんな。かつていた時代とだいたい近い時代に生きている、ミトスという少年が、異世界の女性について、なんて。そんな、あまりにも、あまりにもわたしのミトスくんと近いこと。そう、めったにあるわけなくて。
なら、ならば勇者ミトスは、本当に?
「そ……それって……!」
「リーダー。ロイドたちを連れてまいりました」