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ちゃんと考える前に、彼の部下が部屋に入ってきた。
その後ろについてきたロイドたちに、思わずほっとする。

「ロイド! みんな!」
「ナギサ! ……よかった、無事だったんだな」
「うん。コレットは……そのままか」

しいなに腕を引かれて来たコレットが、何の表情も浮かべずぼんやりしているのを見て肩を落とす。
……やっぱり、心を失ったまま、なんだ。
何も映さない彼女の瞳を見つめる。
その間に、ロイドはユアンとボーダに向き直った。

「お前らが……レネゲードなのか?」
「そう。我々はディザイアンに……いや、クルシスに対抗するための地下組織だ」
「じゃあ、クルシスとディザイアンは……本当に同じ組織なのか!」

天の機関クルシス。
人々を苦しめるディザイアン。
相反する組織だけれど、確かにユグドラシルも言っていた。自分はその両方を統べる者だと。であれば、その二つは同じ組織であって当然、なのだ。

「その通りだ。クルシスは表でマーテル教を操り、裏ではディザイアンを統べている。ディザイアンはクルシスの下位組織にすぎん」
「マーテル教はクルシスが世界を支配するために生み出した方便にすぎない。天使と名乗っているが、奴らはクルシスの輝石という特殊なエクスフィアを用いて進化したハーフエルフなのだ。もっとも、マーテル教も神子もそんなことは知らないはずだがな」
「あいつらも……ハーフエルフなのかい?」
「ああ。ディザイアンの一部もクルシスも、そして我々もハーフエルフだ」
「……クルシスは何が目的なんだ? 世界を支配するためだけにこんなことをしているのか?」
「全て我らに聞くつもりか? 少しは自分の頭を使ったらどうだ」

ため息を吐くようにユアンさんが言う。そんなこと言われても、まだまだ混乱している最中なのに。まあ、確かに情報だけ出されても追いつけないので、咀嚼する時間をもらえるのは助かるけど。
ええと、クルシス……は、つまり、マーテル教が信仰する女神や天使たち、でいいんだよね。ディザイアンは正反対に、みんなが恐怖する対象。そしてそのどちらも、目の前にいるレネゲードも、みんながハーフエルフ。
ハーフエルフって結構多いんだな。いやそうじゃなくて、ええと、クルシスはつまり神子を管理する存在で、神子は世界再生のために旅に出て、その旅の最後には……

「女神マーテルの復活かしら? マナの血族に神託を下し、婚姻を管理して器となる神子を作り上げている。かなりまだるっこしいやり方なのが気になるけれど」
「ほう……見事ですな……」

リフィルさんの言葉に、ボータが感心したように声を漏らす。

「シルヴァラントには互いにマナを搾取しあうもう一つの世界がある」
「テセアラですね」
「そう。そしてこの歪な二つの世界を作り上げたのが、クルシスの指導者ユグドラシルだ」

告げられた言葉に呆然とする。
ユグドラシルがこの世界を作った? 互いにマナを搾取しあう仕組みを? 彼もハーフエルフなのではなかったの? 世界を作るなんてそんなの……まるで、神様だ。

「世界を作る? ばかばかしい! そんなこと出来るわけないよ!」
「そう思うのなら、ここでこの話は終わりだ」
「待てよ。二つの世界を作ったのがユグドラシルなら、お前らはそんな連中相手に何をしようとしてるんだ。それだけじゃない。お前たちはコレットの命を狙ってた。俺のことも、だ。到底味方とは思えない。それなのに、どうして俺たちを助けたんだ?」

立ち去ろうとしたユアンさんにロイドが問いかける。
その内容に彼は薄く笑って立ち止まった。

「……まんざらバカでもないらしい」
「何?」
「我らの目的はマーテル復活の阻止。そのためには器となる神子が邪魔だったのだ。完全天使化した今は防衛本能に基づき敵を殺戮する兵器のようなもの。下手に手出しはできん。しかし、マーテル復活阻止という目的を果たすために最も重要なものは、既に我らが手中にある。もう神子など……必要ない!」

ユアンさんの目配せに、レネゲードの部下たちは素早くわたしたちを囲む。
味方のようだった彼らに完全に包囲される形になって、わたしたちの誰もがすぐに動けなかった。

「我らに一番必要なのは貴様たちだ、ロイド・アーヴィング!天織なぎさ!」

呼ばれた名前に自分も入っていて戸惑う。
ロイドはなんとなくわかった。特別なエクスフィアとか言われたし、前に会った時にだいぶ気にしていたようだったから。
でも、なんでわたしまで?

「……はあ?」
「俺たちが一体何だって言うんだ……」
「貴様が知る必要はない! 捕らえろ!」
「くそっ!」

やけになってロイドがユアンさんを蹴り飛ばす。それを食らって、彼はあっさりと床にしゃがみ込んだ。
意外に弱いのかも、と思ったけれど、どうやらもともと怪我をしていたらしい……それはそれで好都合だ。近くにいたコレットの腕を掴んで、今の内にと走り出す。
それから、以前も脱出しようと駆け回った基地を、再び走り出した。