「くそ! 俺たちが一体なんだっていうんだ! レネゲードの連中め、敵なのか味方なのかはっきりしやがれってんだ!」
散々走り回った後で、レネゲードから隠れつつロイドが喚く。
がむしゃらに走ったみんなはそれぞれ息を切らしていたが、わたしが引っ張り回したコレットは息切れ一つしていなかった。
それどころか表情すら変わってなくて、ただでさえ急展開が続いてるっていうのに泣きたくなる。
「ねえ、これからどうするの?」
「……そうだな。なんとかしてコレットを助けよう。マーテルの器にされちまったら、コレットが死んじまう」
「でもどうしたらいいのさ」
女神マーテルの器になんかさせたくないが、何をどうしたらいいのかわからない。
そもそもどうしてこんな状態になってしまうのかも不明なのだ。
どうにかしたくてもどうにもできない。
「……ねえ、しいな。あなたのエクスフィアはどこで手に入れたものなの?」
「な、なんだよ急に……これは……こっちに来るとき、王立研究院でつけられたんだよ」
「テセアラではエクスフィアを装備するのが当たり前なのかしら?」
「そんなことはないよ。もともとはレネゲードからもたらされた技術なんだ。それを研究して、今じゃ機械に取り付けたりするのが一般的だよ」
リフィルさんの問いにしいなが答える。
人ではなく機械に使うとは思わなかった。聞けば聞くほど、テセアラというのは近代的というか、ここよりもずっと文明化が進んでいるらしい。
「ちょっと待て。じゃあテセアラとレネゲードは仲間なのか?」
「仲間……かどうかは知らないよ。ただ、二つの世界の仕組みについて情報をもたらしたのはレネゲードだったんだ。神子の暗殺計画も奴らの提案だよ。あいつらが陛下と教皇に吹き込んだんだ。テセアラの繁栄を望むなら、シルヴァラントの神子を殺せって」
「ひどい……」
「ロイド。私はテセアラへ行くことを提案するわ」
リフィルさんが言う。
みんなの同意を求めてはいる提案ではあるが、もう何か確信を持っていて、最後の確認として話すような力強さを感じた。
「どうしてテセアラなの?」
「ユアンが言っていたじゃない。天使とはクルシスの輝石という特殊なエクスフィアによって進化したハーフエルフだって」
「……そうか! コレットのこの状態も、クルシスの輝石のせいか!」
確かに冷静に思い返してみれば、ユアンはそんなことを言っていた。
クルシスの輝石という名前の特殊なエクスフィア。それを用いてハーフエルフや神子は天使に進化する。
つまり、天使化の原因はクルシスの輝石なのだから、エクスフィアを研究していたテセアラなら何かわかる可能性が高い。
「エクスフィアの研究をしてたテセアラなら、何かわかるかも……ってこと?」
「そいつはいい考えだ。確か王立研究院では、テセアラの神子が持ってるクルシスの輝石について研究していたはずだよ」
「テセアラにもマナの神子がいるの?」
「当たり前サ。世界再生はテセアラでも行われている儀式だ。あっちにだってマーテル教はある」
「そうか、この四千年、二つの世界は繰り返していたんだもんね。……でも、そんなに再生を繰り返しているのに、どうしてマーテルの器は完成しなかったんだろう?」
「それについては私も疑問なの。あるいはあの救いの塔に並んでいた遺体は……いえ、今は止めましょう」
「そうだな。ただでさえわからないことだらけなんだ。クルシスの目的もレネゲートのことも、コレットを救う方法も。だから、出来ることから始めようぜ」
「テセアラに行くんだね」
「ああ。今はそれしか道はない。それに今度こそ、俺は俺の責任を果たしたいんだ。もうコレットに全てを押し付けたりするもんか」
ぼんやりとしたままのコレットを見る。
ロイドがその手を握っても、彼女はやはり何の反応も示さない。
それが余計に彼の決意を固くさせた。
「待ってよ。盛り上がってるけど、テセアラにはどうやって行けばいいの?」
「それはしいなが知っているでしょう?」
「テセアラに行くには、次元の歪みを飛び越えるらしいんだ。あたしが知る限りそれが出来るのは、レアバードって乗り物だけだね」
「それはどこに……」
さらに問いかけようとして、背中に生暖かい何かがぶつかったのを感じて中断する。何だと見れば、やっと会えたと嬉しそうに尻尾を振るノイシュの姿があった。
いろいろあって忘れてしまっていたけれど、どうやら救いの塔の入り口にいたノイシュもレネゲードに保護されていたらしい。怪我もなさそうだ。よかった!
「ノイシュ! 君もいたんだ!」
「救いの塔の前に置いたままだったから心配したぜ! 大丈夫か? どこも怪我してないか?」
嬉しくなってロイドと一緒に彼を撫でる。
ノイシュはそれに嬉しそうに目を細めていたが、やがてはっと耳を立てるとロイドの服を噛んでぐいぐいと引っ張った。
「どうしたんだよ、ノイシュ?」
「ついて来てほしいんじゃない?」
返事をするように小さく鳴いて、ノイシュが走り出す。
さすがに無視するわけにも行かず追いかければ、彼はやがて格納庫のような部屋に入った。
そこに並ぶいくつかの翼のような機械を見て、しいなが歓声をあげる。
「これがレアバードだよ!」
「ノイシュ、ナイス!」
ガシガシと頭を撫でて、それぞれレアバードに乗り込む。
一人乗りが前提になっていたが、ロイドのところにノイシュを、わたしのところにコレットを無理やり乗せることにした。
「おっしゃあ! 待ってろよテセアラ!」
「待っとくれ。今使い方を……」
「うおおっ!?」
「ロイド! ……ああ、もう……」
一人勢い良く飛び出して行ってしまったロイドの背中を見ながら、わたしも教わった通りにレバーを握る。
ゆっくりと動き出したそれは浮かび、そして、まだ青い空に向かって飛び出した。
突き進む。突き進む。空に向かって。空間の亀裂に向かって。
……空間を、越える。
また、わたしの知らない世界へ、飛び出した。