空間を飛び越える感覚というのは、わかるような、わからないような。壁を潜り抜けたような、家の中から外に出たような。確かに何かが変わったけれど、何が変わったのかうまく説明できない、なんとも不思議な感覚だった。
基地を飛び出して、青い空が目の前に広がる。上空にいるということは、きっとここはもうテセアラなのだろう。けれど、シルヴァラントと変わらない綺麗な空しか見えない。
本当にテセアラに来たのかと疑って辺りをよく見ようとしたところで、ガクンと機体が大きく揺れた。
「わわっなに?」
「見て! 燃料が0になっているわ!」
「そうか! あんたたちがシルヴァラントで封印を解放したから、こっちのマナが不足してるんだ!」
「だから?」
「落ちるってことさ!」
ぐんっと一気に高度が下がって、次々にレアバードが地面に向かって落ちていく。
絶叫マシンとかで感じたことのある、内臓を持ち上げられるあの気持ち悪い浮遊感。わあ懐かしい。でも今、安全バーは存在しない。どんどん近付いてくる地面はどう考えても固い。絶対固い。痛いじゃすまない。
「し、死ぬ……さすがに、死ぬ」
ああ、わたし、エクスフィアもないのに今までよく生き残ってこれたよ。
ごめんねみんな。いや、みんなも危機なんだけど、でもごめん、こんな所で道半ばで倒れてしまうなんて。
せっかく、せっかくミトスくんが勇者ミトスなのかもって確信が持てたところだったのにな……
完全に諦めて目を閉じると、ぐっと何かに体が持ち上げられた。
え、と慌てて目を開くと、わたしにしがみつかせていたコレットが天使の羽を持って飛び上がるところだった。
……そっか、防衛本能だけで行動するんだっけ。墜落という危険を感じて、それを避けるために浮かんだらしい。その際、わたしの胴に回させたままの腕が引っかかってくれたのだろう。よかった。申し訳ないけどあっさりとレアバードのハンドルから手を離して、落ちていくそれを眺めながら、コレットに抱えられたままゆっくりと降りる。
山頂のような場所に降り立って、偶然でも助けてくれたコレットに礼を伝えた。……やっぱり、反応はないけど。
「みんな、無事?」
「あ、ああ。なんとか」
良かった。
多少の怪我はあるみたいだが、大きな怪我もなければ、みんな無事みたいだ。
ロイドはみんなの顔を確認してからレアバードを見て、煙を出しながらもまだ形を保ってはいるそれに苦笑した。
「大破は免れたかな……」
「どっちにしたって燃料が無きゃ飛ばないじゃん!」
「燃料って、石炭か?」
「あんたたちねー、そんな古臭いものこっちじゃ使ってないよ」
「それなら魔力ね。ヴォルトが生み出す雷のマナかしら」
「じゃあ、しいながヴォルトを呼び出せばいいんじゃないの?」
ジーニアスの提案に、さっとしいなが顔を逸らす。
「あ、あたしは、ヴォルトとは契約してないから」
「そうか。そしたらこれはここに置いておくしかないな」
「あ〜あ、魔科学も結構不便だな〜」
「……ん? あれは?」
がっくりと肩を落としたジーニアスの背中越しに、ロイドが何かを見つけて声を零した。彼につられて全員がそちらを見れば、僅かに霞むくらい遠くに、長く長く天に聳える塔があるのが見える。
長く、長く、頂上すら見えないほどに高く、天地を貫くように伸びるそれは、そう。シルヴァラントで散々見た救いの塔そっくりだった。
「あれは……救いの塔? どうして、ここはテセアラでしょ!?」
「当たり前さ。救いの塔は繁栄世界に出現するんだ。そっちだってコレットが神託を受けたから救いの塔が現れたんだろ?」
救いの塔は世界再生の始まりを告げる、救いの象徴だと思っていたんだけど……どうやら再生後もそこに残ることで、やがて繁栄の象徴になるらしい。
その話を聞いて、リフィルさんは険しい表情でしいなに詰め寄った。
「二つの世界、二つの塔……聖地は? こちらにもマーテル教はあるのでしょう? 聖地はカーラーンなの?」
「そうさ。あの救いの塔がある場所が聖地カーラーン。あんたたちの世界と同じだよ」
「聖地カーラーンってのは、古代大戦の停戦調印場所だよ。二つあったらおかしいじゃない」
「そっちが紛い物なんじゃない? こっちの博物館には、勇者ミトスが二人の古代王を聖地カーラーンに招いて停戦の調印をしたって、資料も残ってるんだよ」
「こちらも資料ならあってよ。パルマコスタの学問所に、調印式に使われた道具が残ってるらしいわ」
「張り合わないでよ二人とも。ねえ、しいな。こっちには勇者ミトスに関する文献とかあるの?」
「あるよ。サイバックって街の資料館なら数も揃ってるんじゃないかな」
「そっか……」
さり気なく話を逸らしつつ、聞きたかったことを聞いておく。
勇者ミトスの文献……シルヴァラントにあったものを読まなかったけど、わたしがなんとなく考えている説が正しいなら、たぶん、記載されている内容に違いはないと思う。
どちらの世界にも伝わる勇者ミトス。テセアラとシルヴァラント。かつての時代で戦争を行っていた二つの国。……ここまで来たら、偶然で片付けてはいけない気がする。ちゃんと、考えないといけないって、思う。
「テセアラと、シルヴァラント……」
「どっちかが偽物か、どっちも本物だったりしてな」
「そんなわけないでしょ!」
「怒るなよ。言ってみただけだろ……まあいいや。とにかく行こうぜ」
「確かにここで考えこんでも答えはでないだろうしね」
「うわー、テセアラでの初冒険だね!」
ロイドが歩き出そうとして、ジーニアスが楽しそうに飛び上がる。
冒険、なんてあたりが非常に男の子らしいけど、やっぱりこのメンバーって緊張感ないよなあ。
思わず苦笑してしまうと、リフィルさんがふうとため息を吐いた。
「……ジーニアス。遠足じゃなくてよ」