49-2

「……ロイド、どうかしたの?」

フウジ山岳というこの山を下りながら、ふとジーニアスがロイドを覗き込んだ。
そういえば彼にしては口数が少ないなと、コレットの手を引きながら様子を伺う。

「いや……イセリアでみんなを傷つけて、そして今回コレットを守ってやることも出来なかった。少しは強くなったつもりでいたけど、全く進歩してないと思ってさ……」
「ロイド……でも、でもロイドは、いつも最善を尽くそうとしてきたんだろ。諦めないで、こうしてテセアラまで来て。他の人間とは違うよ。だからボク、ロイドが好きなんだ」
「……ありがとな、ジーニアス。よし、せっかくここまで来たんだ。諦めずに、コレットも世界も救える道を探してみせる」
「うん! ボクもずっとついていくよ。ナギサもそうでしょ?」
「……え? あ、うん」

突然話を振られて反応が遅れてしまって、今度はわたしが心配そうに顔を覗き込まれた。
ううん、情けない。今、余計な心配を彼らにかけるわけにはいかないだろうに。

「どうしたんだ? ノイシュもなんか怒ってるし」
「ノイシュは墜落したことに驚いてるんじゃないかな」
「ナギサもそうなのか? 確かにびっくりしたよなー」
「そうね。空を飛ぶなんてめったに無い経験ですものね」
「空から落ちる経験もね」
「そんなの何度も経験したくないけどね」
「仕方ないだろ。シルヴァラントの封印を解放すれば、こっちのマナが薄くなるんだから」
「薄いって言っても、こっちはシルヴァラントに比べたら随分マナが濃いよ」
「へえ……そんなことがわかるのかい?」
「そりゃわかるさ。ジーニアスと先生はエルフなんだからな」
「どうしてエルフだとわかるのさ」
「そりゃ……エルフだからだよ」

楽しそうに弾む会話を聞きながら、わたしはユアンとの会話を思い出す。
今、とにかく情報がいっぱいありすぎて、何が何やら状態だ。少しまとめて整理しないと、頭がパンクしそう。

まず、確実にわかること。ユアンが言っていた、勇者ミトスの文献にある、彼を奮い立たせた異世界の女性のこと。
これは、ちょっと自惚れかもしれないけれど、わたし、ということでいいのだと思う。
勇者ミトスが活躍したのが四千年前。わたしがいた時代も四千年前。この当時に世界再生の仕組みもマーテル教もなかったし、そもそも「異世界の人間」とやらがそこらへんにいるとも思えないので、そのまま素直に受け止めていいだろう。そうでなければ、ユアンがわざわざ話題にあげるのもおかしい。彼が何故それを知っているのかはわからないけれど、勇者ミトスはミトスくんだ。
マーテル教に関しては推測だけど……以前にこうだったりして、と考えたように、女神の名前が長い時を経て彼の姉のものになってしまった、のだと思う。クルシスという教会の統治者がいるのにそんなことあるかな、とは思うけれど。そうじゃないと時代的に合わないし、イコールでは結べないはず……かな。ちょっとここは自信がないけど、勇者ミトスについてもう少し詳しく書いてある文献を読めば、もう少しわかることが増えるかもしれない。

そして、わからないけれど、もしかして、と思うこと。かつて存在した二つの国の名前を冠する、この二つの世界のこと。
ユグドラシルが作った、という言葉のせいで余計に謎が深まっているけれど、当時の時代のものが残っているのだから、基本的に四千年前と地続きの世界でいいと思う。たぶん、どっちも。どちらの世界も、あの時から続いている、と、思う。
でもどうして? どうして、こんな形になってしまったのだろう。もしかして、停戦後にかつての世界は滅びてしまったとか? そして勇者の活躍の後に滅びた世界を、ユグドラシルが新たに再生したとか? 再生する際に、この歪な二つの世界の形を作り上げたというのなら、あの二国の名前がそれぞれにつけられているのも、なんとなくわかる……いや、わからない。わざわざ二つに分ける意味がない。
あの当時の世界が新しく二つの世界として再生されたというのなら、勇者ミトスの伝説も同じように残るし、それを再生したユグドラシルが統治するのも、わかるような気はするけれど。結局、その選択に疑問を持ってしまうことは変わらない。

そもそも、どうして女神は器を求めているのだろう。どうしてこれまでの四千年で器は完成しなかったのだろう。
ああ、わかりそうで、わからない。手が届くようで、届かない。
ミトスくん。マーテルさん。君たちがきっと救ったのだろう世界は、どうしてこんな形になってしまったの?

「ところでさ、これからどこに行くんだ?」

どこかでタイミングを見てリフィルさんに相談してみよう。そう思いながら麓まで降りてきたところで、ふとロイドがそう首を傾げた。
先頭きって歩いていたロイドのセリフに、みんな思わず一瞬黙り込んでしまう。

「……あ、あんたねー。行こうって言い出したのはあんたなんだから、どこに行くのか知ってるのかと思ったよ」
「知るわけないじゃん。俺シルヴァラントの人間なのに」

そりゃそうだ。
すごく自信満々に前を歩くから、なんとなくロイドはわかってるような気分になってたけど、彼にとってここは見知らぬ異世界。地理関係なんてわかるわけがない。

「あーあーそうだったね! あたしが悪かったよ。メルトキオさ王都メルトキオ! テセアラの中心、テセアラを統べる国王陛下がいらっしゃる街だよ」
「中心……じゃあ、マナの神子もいるのかな? こっちの神子ってどんな人?」
「そうだねぇ。一言で言うと……」
「言うと?」
「バカだ」
「は?」

繁栄世界の神子だから、コレットみたいに自己犠牲精神に溢れた神々しい……とまではいかなくても、やっぱりこう、責任感に溢れた人のイメージだったけれど、しいなの呆れきった表情からして、このイメージとはだいぶ違うのだろう。
でもバカか。コレットはドジだし、神子って結構、そういう可愛いところがあるタイプの人なのかな。

「ま、自分の目で確かめるんだね。ここはフウジ山岳だから、メルトキオは北に少し言ったところさ」
「メルトキオかぁ。楽しみだな!」