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王様は病で伏せっているとかで、城に入ることすら許して貰えなかった。
早く治るように教会で祈れと言われたが、それで治るとかいつの時代だという話である。一応教会に来てみたけれど、シルヴァラントのそれより豪華というか芸術的要素も入った建築デザインにまたしても文明の差を感じるだけだ。
なんとかして潜入出来ないだろうかと悩んでいたところで、わたしたちは一人の女の子の力を借りようと思い至った。
教会に大木を引きずって来て、それを王様の寝所へ持っていけと指示された幼い女の子……確か、プレセア、と呼ばれていた女の子。彼女を追い掛けて外に出れば、彼女は無表情のまま男と話していた。

「じゃあ頼むぜ。神木をアルタミラまで。この仕事の後でいいからな」
「……わかりました」
「順調だな。さっそくロディルさまにご報告だ」
「待ってよ、キミ! えっと……プレセア!」

他にも仕事の依頼をしていたのだろう小太りの男が去ったのを見て、ジーニアスが彼女に呼びかける。
律儀に立ち止まってくれたプレセアちゃんに、なるべく優しく話しかけた。

「ちょっといいかな」
「俺はロイド。こっちはコレットにナギサにリフィルに……」
「ボ、ボクはジーニアス!」
「……ジーニアス? お前、何顔赤くしてんだ?」
「ボクたちに、神木を運ぶのを手伝わせてもらえないかな?」

顔が赤いのは思春期だ。さっき、人が恋に落ちる瞬間を見てしまったからね。うんうん、ジーニアスだって男の子だし、プレセアちゃん可愛いし、可愛らしくて実にいい。
なんて、わたしは謎の後方理解者面で腕組みをしてしまうけれど、彼女からしてみれば突然話しかけてきた怪しい集団に変わりはない。警戒してか、何事も無かったように重い音をたてて大木を引きずりだしたのを見て、慌てて呼び止めた。

「ま……待ってよ!」
「ごめんなさい。怪しい者ではないのよ。実は私たち、陛下にお渡ししたい手紙があるの」
「仲間の命がかかってるんだよ。でも王様は病気で謁見してもらえないから困ってるんだ。俺たちを運び屋として使ってくれるだけでいいんだ……き、聞いてる?」
「……わかりました」

黙って聞いていたプレセアちゃんが、引きずっていた大木をおもむろに置いて、一人歩き出す。

「あの、プレセア?」
「それ……運んでください」
「よ、よし! わかった!」

な、なるほど。つまり運び屋として使ってくれるということか。
口数少ないしにこりともしないけど、あっさりと協力してくれるあたり、優しい子なんだろうな。
思わず笑顔になるけれど、ロイドとジーニアスが大木を持ち上げようとしてうんうん唸っているだけで全然動かせないでいるのを見て、思わず真顔になる。押したり引いたりしているがピクリとも動かない。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! こ、これ……重……っ!」

プレセアちゃんが戻ってきて、大木についた取っ手を掴んだ。
二人がかりでも動かなかったそれが、ズルズル、ゴロゴロ、とにかく重い音をたてて引きずられていく……しかも、片手で。

「……男として、自信無くなってきた」
「ボクも……」

な、何はともあれ、プレセアちゃんにくっ付いてわたしたちも再び城の入り口に立った。身分証明書とかの掲示を求められたらどうしようかと思ったけれど、今日は特別、と言ったプレセアちゃんの言葉を信じて、門番はあっさりとわたしたちを城の中に通してくれる。
これはプレセアちゃんが信頼されているがゆえなのか、これまで進入してきたあらゆるところのように警備がザルなのか……さすがに、前者だと願いたい。

「何とか潜入できたな」
「この神木はどうするの?」
「……ここにおいておきます」
「よし、それじゃあ王様の寝所ってのを探そうぜ」
「プレセアはどうするの?」
「そうね、彼女だけに帰られては不自然だわ。一緒に来てもらいましょう」
「お願いできるかな」

無言で頷いてくれたプレセアちゃんも連れて、わたしたちは王様の寝所を目指して城の中を歩き出した。