50-3

結果だけを言えば、王様に手紙渡すことはできた。
この紅の間という客室にいるのもその返事を待つためだ。その場にいた神子と教皇と共に手紙を読む間、ここで待っていろ、と言われたわけなのだけれど。どんな返事が来るかわからないし、待てと言われてからだいぶ時間が経つがまだ彼らがやってくる気配がない。
それがどうしようもなく不安を煽る。大丈夫だろうか。信頼してくれるだろうか。協力してくれるだろうか。ロイドの眉間に寄ったシワ深くなると同時に、わたしも不安でたまらなくて、ただただコレットの手を握りしめた。

「ずいぶん待たせるな」
「私たちを殺す準備をしているのかもしれなくてよ。彼らにとってコレットは、邪魔な存在でしょうから」
「そんなことになったら、プレセアはどうなっちゃうの?」
「なんとかして逃がしてやるしかないな」
「ごめんねプレセア。巻き込んじゃって……」

プレセアちゃんは何の反応も返さない。
コレットと同じように、彼女は笑わないしあまり喋らない。だから、今どんな気持ちでここに立っているのか全くわからなくて、自然と空気が重くなる。
なんとか不安を振り払いたくて、わたしはぶんぶんと首を振った。

「そ、それにしても、あの人が神子だったんだね。繁栄の神子は再生の神子と意味合いが違うから、あんな感じになるのかな?」
「そうかもしれないわね。少なくとも再生の儀式のための心構えを説かれることはないでしょうから」
「待たせたな、シルヴァラントの旅人よ」

ガチャリと扉を開いて、教皇と数人の兵士と……そして先ほど町で会ったゼロスさんが入ってきた。
そう、ゼロスさん。
何を隠そうこの人こそ、さっきリフィルさんと話した、テセアラの神子、ご本人様である。
先ほど王様の寝所にいた、繁栄世界の神子。
……ナンパ男の神子さま。

「手紙は読んでもらえたか?」
「そっちの神子を助けるために、俺たちテセアラ人の技術を借りたい……ってか?」
「コレットは心を失ってる。このままじゃ人間としての命を失っちまうんだ」
「しかし神子が生きている限り、我々の世界は滅亡と隣り合わせだ」

教皇の言葉に合わせて兵士たちが武器を向ける。
これは、完全に敵認定を受けてるってこと、だろうな。つまり、最悪の予想通り、彼らの協力は得られない……か。

「姉さんの言った通りになっちゃった……」
「待ってくれ! 俺たちの話も……」
「問答無用! かかれ!」

どうしよう、と思う暇もなく兵士が武器を振りかざす。
だが彼らが成果を出すことはなかった。彼らの一番近くにいたコレットが、無表情のまま兵士たちを全員なぎ倒したからだ。
先ほどゼロスさんに対しておこなったように、現在唯一残っているという防衛本能によって戦闘行動だけはできるということだろう。頼れるけれど、やっぱり悲しい。

「全く歯が立たないではないか!」
「ほら見ろ、だから俺が言ったろ。エクスフィアをつけてるんだ、こいつらは強いに決まってる」
「ふーん。とぼけた顔のわりには賢明な判断だね」
「小生意気なクソガキだなぁ……」

顔を赤くする教皇に対し、神子ゼロスさんは冷静に言う。
ジーニアスの言葉にはつい文句も出てしまったようだが、まあ、仕方ない。後で謝ろう。いつもなら弟の頭を叩くリフィルさんも今は気にせず、代わりに毅然とした態度でゼロスさんたちに向き直った。

「どうかしら、取引をするのは」
「取引、だと?」
「コレットが心を失ったのは、天使として生まれ変わりシルヴァラントを救うため。言い換えれば、彼女が天使にさえならなければシルヴァラントは救われない」
「は〜ん。だから俺たちが神子を助ければ、テセアラも救われるってことか」
「それはお前たちがシルヴァラントを見捨てるということだぞ」
「構わなくてよ」
「先生! 何言ってんだ!」

迷いなくシルヴァラントを切り捨てる彼女のセリフに、思わずロイドが声をあげる。だがリフィルさんは至って冷静だ。冷静に、彼女はコレットを選ぶ。
……うん、そうだよね。そもそもわたしたちは、あのままならシルヴァラントが救われたというのに、コレットを失いたくないって思ったから、このテセアラまで来たんだ。
きっとその時点で、わたしたちはもう、シルヴァラントだけを救うことなんてできない。

「今私たちが最優先しなければならないのはコレットを救うことではなくて?」
「でも……シルヴァラントを見捨てるなんて……」
「わたしも異存はありません」
「ナギサ!」
「ロイド。ジーニアス。わたしたちがテセアラまで来た理由は何?」

わたしもリフィルさんに賛成する。ロイドたちは迷っているようだが、やがて頷いてくれるだろう。
彼らだって、わかっているはずだ。ただ、改めて自分たちの世界と幼馴染みの女の子を天秤に乗せることに抵抗があるだけで。……そんな、ひどい天秤の選択しかできない現状が許せないだけで。自分たちがどうしてここに来たのか、ちゃんとわかっている。

「仲間割れか?」
「いや……先生の言うとおり取引しよう。コレットを救う方法を教えてくれ」

期待通り、頷いてくれたロイドは改めてゼロスさんたちを見る。
彼はその視線をしっかりと受け止めると、どこか不敵に微笑んだ。

「なあ教皇。こいつらがシルヴァラントに戻らなければ、死んでようが生きてようが再生の儀式は出来ねえんだぜ。だから俺さまが監視役になる。それでいいだろ?」
「……神子さまがそこまで仰るのでしたら」

しぶしぶと教皇が頷く。
それに、わたしとジーニアスは思わず表情を明るくした。

「じゃあ、コレットを助けてくれるんだね」
「そうだな。出来る限りのことはしてやるよ。神子ゼロスさまの名にかけてな」
「ありがとうございます!」

コレットを見る。
もうすぐ、きっともうすぐ助けてみせる。
だからもう一度、笑ってほしい。

「お前たちにはテセアラを旅する許可を与える。ただし、神子さまの監視の下でな」