王立研究院があるというサイバックの街は、街のどこを見ても研究員風の人しかいなかった。
テセアラ中の英知を集めたとかなんとか、インテリ美女がどうのとかゼロスくんは言っていたけど正直聞き流したのでわからない。別に、美男美女って目の保養にはなると思うけど、だからってお近づきになりたいわけでもないし。
むしろ、ここにある図書館とかに、勇者ミトスの文献があるだろうってしいなが言っていたことの方が気になる。でも今は、見れそうにない。
プレセアちゃんはこの街を嫌っているようだったが、少しだから我慢してねと頼んで研究院を目指す。やっぱり歩みは遅いから、コレットを引っ張るついでにプレセアちゃんの手も握ってみんなの後ろをついて歩いた。
物凄く保護者な気分だけど、二人して無口の無表情なのでまったく会話は弾まない。プレセアちゃんのこれは性格なのかな。なんだか今のコレットにそっくりで、少し気になった。
しきりにジーニアスがこちらを気にしながら歩くのを見ながら、待っていた研究員の人に案内されて部屋に入る。
「コレットさんの症状の報告を受けて、我々は神子ゼロスさまのクルシスの輝石を調査した資料に着目しました」
「ほうほう。俺さまの輝石が役にたったんだな。こりゃあコレットちゃんが正気に帰ったらたっぷりサービスしてもらおう……って、いたっ?」
真面目な話をしているのだから、と諫めるつもりで軽くお尻を叩けば、ゼロスくんがびっくりした顔をしていたけれど、黙ってもらうことには成功したので気にしないでおく。
ここに来るまでで学んだのだ。ゼロスくんはちょっと、女の子にだらしない。ロイドたちの教育にも悪いし、今は本当に真面目な時なので。……まあ、いきなりお尻叩かれるの、セクハラみたいだし、あとで謝っておくか。
「クルシスの輝石はエクスフィアの進化系と考えられます。二つの結晶体は共に無機生命体ですから」
「なんですって!?」
研究員の人の説明を遮って、リフィルさんが声をあげる。また話を中断させてしまってごめんなさい。ちょっと困った顔をした研究員さんに、すみません、ととりあえず謝っておいた。
ええと、それで、なんだっけ。エクスフィアと輝石は無機……ええっと、なんつった?
「むき……? なんだそりゃ」
「無機生命体。そうね、つまりエクスフィアも生きているってことね」
「そうです。二つの結晶体はどちらも他の生命に寄生し融合する性質を兼ね備えています」
「寄生か……ぞっとしないな」
誰かに寄生し融合する。有機物ではない、生き物。
誰かに依存しながら誰かを食い潰す……言葉だけならまだしも、実際にエクスフィアになってしまった人たちを思い出すと自然と表情が強張ってしまうのがわかった。
「この時、要の紋がないと体内のマナがバランスを崩し、暴走すると考えられます」
「だから要の紋無しのエクスフィアは人を化け物に変えちゃうんだね」
「その通りです。つまりクルシスの輝石がエクスフィアと同質のものである以上、現在のコレットさんはクルシスの輝石に寄生されていると推測されます」
「なるほどね。だとすると封印解放の儀式はクルシスの輝石による融合を促進させるための効果があるのかもしれない。興味深いわ……」
「先生。そんな言い方やめてくれよ。コレットばっかりこんな酷い目にあってるっていうのに……」
ロイドがコレットを見る。わたしに手を引かれるままここに来た彼女は、やはり無表情にぼんやりと宙を眺めていた。
感覚と感情を失って、世界の為と死ぬための旅に出て、天使疾患に苦しんで、試練だと戦って……それらがすべて、クルシスの輝石による寄生を促進させるためのもの、ということは、彼女は最初から、この輝石に乗っ取られるために生まれたみたいだ。
そんなこと、あるわけないのに。死ぬための旅をしていたという覚悟だって、そんなものいらないって、怒りたいくらいなのに。それでも笑っていたコレットに何故だか悔しくなって、わたしは彼女の手を握る力を強くした。
「そんじゃあ要の紋があれば彼女は元気になるんだな?」
「そうですね。要の紋があれば、この方はクルシスの輝石を自由に操れるようになるはずです」
要の紋、か。
思えば、旅の始まりの一つであるマーブルさんに出会った時も、要の紋を用意しなくちゃって、思ったんだっけ。
なんとなくあの時と似た状況に、わたしはなんとも複雑な気持ちだった。