運よくサイバックのバザーのガラクタ屋に売られていた要の紋を手に入れることができれば、ロイドがそれを加工するのにそう時間はかからなかった。
要の紋をアクセサリーに加工したロイドが、ぼんやりと宙を見るコレットの前に立つ。
それを彼女に見えるように持って、そっと話しかけた。
「こんな形でお前に誕生日プレゼントをやるとは思わなかったな。首飾りに要の紋を取り付けた。遅くなったけど、これが俺からのプレゼントだ……」
そっと首飾りをコレットの首にかける。
それは、ロイドが作った、彼女へ渡すはずだった誕生日のプレゼントだ。
旅の途中で壊してしまったから作り直すと言って、結局渡せないまま救いの塔にたどり着いてしまったんだと、少しだけ落ち込んでいたそれ。でも今は、コレットの首もとで彼女のために輝く。
彼女に、もう一度生きてほしいと。誕生を祝うように、輝く。
「……コレット? 俺がわかるか?」
「どうなの?」
「ダメみたいだ……」
けれど何の変化もない彼女に、ロイドはがっくりとうなだれる。
要の紋を付けること自体は間違いないはずだ。抑制鉱石さえあれば要の紋を彫れることも間違いない。となると、やっぱりロイドが正式に修行したわけでもない要の紋では効果が薄い、ということになる。
であれば、ドワーフの本格的な技術が必要になるわけだけど……こちらの世界にドワーフがいるのかはわからないし、シルヴァラントの旅の中でも、彼らに出会うことは一度もなかった。思い当たるのはダイクさん、たった一人だけ。
「ダイクさんに力を借りられないかな」
「でもおじさんはシルヴァラントにいるんだよ。それにレアバードは燃料切れだし……」
「この研究院の人なら、何かいい方法を知ってたりしないかな」
「おいおいおいちょっと待てよ。肝心なことを忘れてないか? 俺さまはお前たちの監視役なんだぞ。シルヴァラントに帰るなんて許すわけないだろうが」
慌ててそう割り込んだゼロスくんを見る。
確かにそうだ。でも、彼を丸め込む言葉は、すでに用意してあった。
「監視役ならついてくればいいじゃん。慈悲深い神子さま」
「……え? マジ?」
「あなたはフェミニストなのでしょう?」
「可愛いコレットを助けるためだもん。ゼロスくんなら、黙っててくれるよね」
「……そう言われたら、チクるわけにはいかないでしょーよ」
ぼそりと呟いた言葉に満足げに笑う。
うんうん、ゼロスくんはやっぱりいい人だね。軽いけど。
とりあえずあとの問題は燃料かな、と考えようとしたところで、ガシャガシャとうるさい鎧の音が聞こえてきた。
「神子さま、聞かせていただきましたぞ。テセアラの滅亡に手を貸した反逆者として、神子さまとその者たちを反逆罪に認定します」
そう言ってわたしたちを取り囲んだのは、教皇騎士団と呼ばれていた兵士たちだ。
突然現れて罪状を読み上げる彼らに、ゼロスくんはあからさまに舌打ちする。
「……ちっ。随分とタイミングがよすぎるじゃねぇか。教皇騎士団さんよぉ」
「教皇さまのご命令です。神子さまに王家への反逆の疑いがあるため監視せよと」
「よ〜く言うぜ。反逆しようとしてるのはどっちやら」
「取り押さえてサンプルをとれ。天使の方はいい。下手に近寄ると殺されるぞ」
ぐいと腕を掴まれて、機械のようなものを押し付けられた。
機械そのものは痛くないが、無遠慮に掴まれた腕が痛くて思わず文句が零れる。
「いてぇ! 何するんだよ」
「罪人は捕らえる前に生体検査を受けるんだよ。こっちには身分制度があるからな。ハーフエルフは見た目が人間と変わらない奴もいる。そいつらを確認する必要があるんだ」
「待って、そんなの……!」
「……た、大変です! 適合しました!」
だめだ、と思った時には、兵士の焦ったような声がした。
振り返れば、リフィルさんとジーニアスに機械を押し付けた兵士が目を見開いているところで。間に合わなかった、と、わたしは一気に血の気が引いた気がした。
「ジーニアス! 先生!」
「お前たち、ハーフエルフだったのか!」
責めるような口調で兵士が怒鳴る。
……わかっていた。彼らがハーフエルフだって、わかっていた。アスカードでのハーレイさんとのやり取りが、そうだって語っていたもの。でもそんなことどうでもいいことで、旅にも関係なくて、二人との関係にも関係のないことで。彼らが話したくない気持ちもわかるから、何も、言わないでいた。言わなければバレないことだって、そう思っていた、けれど。
でも、ダメだ。生体検査って、どうしてそんなことをするのだ。周りの目が変わるのを感じて、何故かうなだれた二人よりもわたしの方が焦りを覚えた。これは、駄目だ。覚えがある。この、一気に周囲から切り離される感覚は、うなだれるリフィルさんの力ない姿は。ハーフエルフだと知られたときの、仕方ないと言ってうなだれたマーテルさんたちに、そっくりだ。
「……ハーフエルフだと? お前ら、本当なのか?」
「……そうよ」
「姉さん!」
「今更隠しても仕方のないことだわ……」
「待ってください、こんなことを調べて何になるんですか? 身分制度に種族なんて関係ないじゃ……」
「黙っていろ、罪人風情が。低脳なハーフエルフの図々しい身分詐称といい、とても許されることではない」
「なんだと! 先生もジーニアスもお前らよりずっと立派だぞ! ハーフエルフだろうがなんだろうが関係ないだろ!」
「そうやって人間ってだけで大威張りしてるほうが、よっぽど低脳なんじゃないですか?」
「なんだと貴様!」
ガツンと背中を叩かれる。
さすがに武装した人の拳は痛いんだけど、どうしても言わずにいられなかった。
「大人しくしとけって。お前らの世界がどうだか知らねえが、こっちじゃハーフエルフは身分制度の最下層なんだよ。罪人は例外なく死罪だ」
「ありえない! ふざけないで!」
「そんなバカな!」
「その二人を連れていけ!」
わたしたちとは別に、兵士たちに連れられていく二人の背中に向かって名前を呼ぶことしか出来ないのが情けない。
でも拘束を振り解こうとしても抜けられなくて、わたしもロイドも誰も動けなくて。二人はどんどん遠くなる。どんどん、寂しそうな、悲しそうな背中が、遠くなる。
「待って! 離して!」
「先生! ジーニアス!」
それがマーテルさんとミトスさんに被って見えて、わたしはどうしようもなく苦しかった。