ハーフエルフである二人を安全に連行するため、人手不足だからと言って、わたしたちは暫く地下に監禁されることになった。
その暫くがどれくらいか知らないけれど、それどころじゃない。なんとかして外に出ないと二人が危ない。というか、そんな大勢で取り囲んで罪人として処刑するってどういうことよ。今までもハーフエルフ蔑視が厳しいところを通ったことはあるけれど、ここまでする?
思わずイライラしながら連れてこられた地下もまた研究室の一部らしく、中には数人の研究員がいた。突然入ってきたわたしたちに、当然彼らは驚いたように視線を向ける。
「……誰!?」
「ハーフエルフ風情が俺たちに声をかけるな。お前は黙って研究を続けろ」
「人間風情が偉そうに……いたっ」
「こいつらは罪人だ。引き取りにくるまでここに監禁しておけ」
さっきから叩かれる背中が痛いんだけど、それ以上は何も言わずに立ち去って行く背中を睨んだ。すっごい背中痛い。
ハーフエルフだという研究員たちは、兵士がいなくなったのを確認してからわたしたちをまじまじと見つめた。
「罪人ねえ。せっかく人間に生まれたのなら、大人しくしていればいいのに」
「お、俺たちは何もしてない!」
「シルヴァラントに帰ろうとはしてたけどな」
「う、うるせー!」
別に帰るくらい……って思うけど、テセアラにとっては見逃せないことなんだろうな。態度悪いけど。どうもテセアラの兵士や貴族は好きになれそうにないなとため息を吐いてしまう。
「……う……来ないで……」
「……プレセア? プレセアね? どうしてあなたまでここに?」
「プレセアを知ってるのか?」
「そ……それは……」
ふと、わたしの後ろにいたプレセアはちゃんが隠れるように後ろを向いてしまうのを見て、わたしたちを物珍しそうに眺めていた研究員の女性が信じられないといった様子で近寄ってきた。
彼女の知り合いなのだろうか。ロイドの至極当然な問いかけに、だが彼女は気まずそうに目をそらす。
「王立研究院のハーフエルフが、人間の子供と知り合いねぇ。おかしいじゃねえか」
「どうしてだ?」
「言ったろ。この世界じゃハーフエルフはゴミ同然だ。王立研究院で働くハーフエルフは一生研究室から出してもらえない……一生な」
「そ、そんな無茶苦茶だ」
人権無視にも程がある。
ミトスくんは、そんなことを許される世界のために戦ったわけじゃないのに。
ミトスくんとマーテルさんと約束したのは、人間もエルフもハーフエルフも同じように生きる世界を作ることだったのに。
またふつふつと怒りがこみあげてきて、わたしは思わず顔をしかめた。
「それの是非はともかく。どうしてここから出られないこのハーフエルフとプレセアが知り合いなんだ?」
わたしが悔しさに歯噛みしている間にゼロスくんが問いかける。
彼女はそれに少し迷ったようだが、やがて眼鏡を押さえながら静かに答えた。
「……その子はうちのチームの研究用サンプルよ」
「研究? なんの?」
「人間の体内でクルシスの輝石を生成する研究」
「クルシスの輝石なんて作れるのか?」
「作れるわ。理論的にはエクスフィアと変わらない。人間の体内にゆっくりと寄生させて……」
「ふ、ふざけるな!」
思わずロイドが怒鳴る。
当然だ。だってそれは、ようするに、時間をかけてプレセアちゃんを殺そうとしている、ということだ。
「それじゃあまるで、ディザイアンがエクスフィアを作っていたのと同じじゃないか!」
「何? 何を言ってるの?」
「人の命を何だと思ってるのかって、そう言ってるんだよ」
その返答に、研究員の彼女はぐっと唇を噛んだ。
それから返した言葉は僅かに震えていて、静かな様子の彼女がどれだけの思いを込めて答えたかが伺える。
「……その言葉、そっくりそのまま返すわ。あんたたち人間は、ハーフエルフの命を何だと思ってるの」
「同じだろ。同じに決まってる。ハーフエルフも人間も、生きてるってことに変わりないだろ!」
いよいよ訳がわからないとロイドを見る彼女の前を、何か小さな影が横切った。
ロイドとの間を裂くように現れたそれには見覚えがある。
首もとに鈴をつけた小さな狐。コリンちゃんだ、と気付いた時には部屋の片隅に煙が巻き上がり、里に戻ったはずのしいなが立っていた。
「そいつはテセアラの人間じゃない。シルヴァラントでハーフエルフやドワーフと育った変わり種だよ」
「しいな!?」
「詳しい話は後だ。ジーニアスとリフィルがメルトキオに連行された。今追いかければ助けられるはずサ!」
だから早く、と急かすしいなに、研究員の女性は慌てて話しかけた。
「あんたたち、逃げるつもりなの?」
「邪魔するつもりかい?」
「こいつは親友のハーフエルフを助けに行くつもりなんだ。どうする? ハーフエルフのお姉ちゃん」
「だ、騙されないわ。人間がハーフエルフを助けるわけがない」
「……しかしケイト。上でハーフエルフが二人連行されたって……」
「時間がねぇ。邪魔するっていうなら戦うまでだ!」
剣を抜くロイドに、彼女……ケイトさんは怯んだ。
だがすぐに平静を装うと、今し方話しかけてきた研究員をちらりと見ながらもう一度こちらに向き直った。
「……いいわ。見逃してあげる。その代わりそのハーフエルフの仲間を助けたら必ずここへ戻ってきて。あなたたちの話が本当だったら……プレセアを研究体から解放してあげてもいいわ」
「本当だな?」
「女神マーテルに誓って」
「……わかった」
その取り引きを拒絶する理由はない。わたしたちはすぐにうなずくと、彼女に教わった出口から急いで外に飛び出した。