二度目のフウジ山岳は、当然だけれど特に変わったことはない。
テセアラ組からは魔物が出るというだけで十分な変化だという意見が出たが、シルヴァラントでもミトスくんたちの時代でも魔物はいたから大して珍しくないと思ってしまう。レアバードも落ちたままの状況から何も変わらないし、やっぱり持ち運ぶどころか起き上がらせることも難しそうだ。
はて、これをいったい、どうやって回収するというのだろう。
「おいゼロス。どうやって運ぶんだ?」
「おう。とりあえずこっちこっち……」
秘密兵器を出すからというゼロスくんに手招きされるまま、わたしたちは頂上の中心まで歩いたところで……ぶぉんと、聞き慣れない音が鳴った。
同時にコレットの手を握っていた手に痛みが走って思わず手を放す。そうして気付けば、コレットを除く全員が光の檻の中に捕らわれていた。
「まんまと罠に嵌ったな……愚か者が!」
高らかに言い放ちながら姿を現したのはユアンだ。この山のどこに隠れていたのか、数人の手下を連れてわたしたちを取り囲んでいる。
えーと、そっか。
このレアバードってユアンたちレネゲードの物だし、彼らの技術力はとっても高いし。GPSのように現在地を知る方法くらい、たぶんあるよね。それでレアバードの場所を見つけて、そこで待っていれば、そのうちシルヴァラントに戻ろうとしたわたしたちが絶対にここに来るわけで。つまり、待ち伏せ、されていたんだ。
ああ、彼らの技術力の高さならこういったことができると思うよって、実際にそういう文明の中に暮らしていたわたしが思いついて、みんなに注意を促しておかないといけなかったのに。なんだかいろいろなことが起こりすぎて、忘れてしまっていること、たくさんあるんだろうな。
でもとりあえず。ここまで見事に罠にはまったのは、無防備に歩き出したゼロスくんのせいということになったようで、みんながゼロスくんをじとりと見やった。
「愚か者だってよ」
「ゼロスくん……ドジです」
「俺さま、しょんぼり……」
ゼロスくんががっくりとうなだれる。
その間にもユアンは部下に指示を出して、わたしたちの目的であったレアバードを回収していってしまった。
あの大きな機体がパッと消えたように見えたのは、やっぱりレネゲードの技術力ってやつなんだろうか。それとも、ゼロスくんがやろうとしていた回収方法と同じなのかな。
「今度こそ貴様らを貰い受けるぞロイド、ナギサよ!」
「……くそっ!」
この檻ごと連れて行かれるなんてたまったもんじゃない。
一人檻の外に棒立ちしているコレットも気になるし、どうしようかと考えを巡らせていると、突然空間から滲み出るように女の人が現れた。
彼女はユアンを見ると、ゆったりと笑う。
「おや、ユアンさまでありませぬか。何故このような場所に?」
盾のようなマントを広げた、美人だけど少し厚化粧な女の人。
初めて見るその人だけれど、どうやらリフィルさんには見覚えがあるらしく、隣で小さく首を傾げるのがわかった。
「どこかで見たことが……」
「それは私のセリフだプロネーマ! 貴様たちディザイアンは衰退世界を荒らすのが役目だろう!」
「私はユグドラシルさまの勅命にて、コレットとそこな娘を追っておりました。こちらにお引き渡しくだされ」
す、と優雅に手を伸ばす。
その言葉と共に指示されたのはコレットと……それからわたしだ。
思わず小さくえ、と声を零した。
「は、わたしも……?」
「どういうことだ? なんでナギサまで……」
神子としてコレットを回収しようとするのはわかるけど、何故わたしまで?
しかもユグドラシルの勅命ってどういうことだろう。わたしは今まで彼らと一切の関係がなかったし、直接対峙したのもロイドだ。ユアンといい、彼らはわたしにどんな利用価値を見出しているのだろう。
彼女の……ええと、プロネーマだっけ、の言い分にユアンは少し悩んだようだけれど、すぐにいいだろうと頷いた。
「……よかろう。だが二人を渡す代わりに、ロイドは私が預かる。それで良いな」
「そやつに関しての命令は受けておりませぬ故、ユアンさまのお好きになされませ」
薄く笑って、プロネーマはまず檻の外にぽつんと立つコレットに近付いた。
まずい。今のコレットは防衛本能で動くと言っても、もともと彼女を連れていく予定だったクルシスの仲間相手に、決して反抗なんてしないだろう。
思わず檻から手を延ばすが、弾かれて痛みだけが指に残った。
「コレット! 行くな!」
「ホホホ! 無駄なことよのぅ。心を失った神子に、お主らの言葉など届かぬぞえ」
嘲るように笑ってから、プロネーマはふと手を止める。
彼女が見ているのは、ロイドが渡した要の紋……誕生日プレゼントの首飾りのようだ。
「なんと。クルシスの輝石にこのような粗雑な要の紋とは。……愚かじゃのう。このような醜きもの、取り除いてくれようほどに」
そう言ってプロネーマが首飾りに手をかける。それを壊してしまおうと強く握りしめるのを見て、やめてと叫ぼうとして。
……けれど、それより先に、その声は響いた。
「や、やめて! これはロイドが私にくれた、誕生日のプレゼントなんだから!」