53-3

プロネーマが倒れたのを確認して、ロイドはユアンに剣を向ける。

「ちょうどいい! ユアン! 貴様ともここで決着をつけてやる!」

言うのとほとんど同時に剣を振り下ろす。問答無用だとばかりに襲い掛かった剣は当然のように受け止められてしまったけれど、実際に受け止めたのはユアンではなかった。
その剣には、その持ち主には、見覚えがある。

「クラトス!」

思わずロイドが驚きの声をあげた。
着ている服こそは違ったが、それは間違いなくクラトスさんだ。彼は受け止めたロイドの剣をはじくと、相変わらず淡々とした表情でロイドを見る。
ユアンも、クラトスさんを睨んだ。

「貴様、何をしに来た!?」
「退け、ユアン。ユグドラシルさまが呼んでいる」
「くっ……神子たちは連れて行くのか?」
「いや……一時捨て置く。例の疾患だ。彼女も急ぐことはない」
「……そうか。ロイド、勝負は預けたぞ」

クラトスさんの言葉に、ユアンはそれだけを答えて背中を向ける。
ついでにプロネーマを抱え上げると、その背中に青く透き通った羽を出現させて、空へと飛び立った。

「ユアンさんも、羽?」
「あいつも天使だったのかい!」
「くそ! 待て! ユアン!」
「お前は何をしているのだ?」

追いかけようとしたロイドに、クラトスさんが静かに問いかける。
一緒に旅をしていた時と変わらない厳しさも含むその声で、あまりにも普通に話しかけてくるから、ロイドは一瞬怯んだ。

「な、なに?」
「わざわざ時空を飛び越え、テセアラまで来て何をしているのだと言っている」
「それは……コレットを助けるため……」
「神子を助けてどうなる。結局二つの世界がマナを搾取しあう関係であることに変わりはない。ただ再生の儀式によって立場が逆転しただけだ」

クラトスさんの言葉に、しいなが驚きの声をあげた。

「テセアラは衰退し始めているのかい!?」
「まだこの世界からも救いの塔が見える。あれが存在する限り、ここはまだ繁栄時代にあるということだ。もっとも、神子がマーテルの器となったあかつきには、テセアラも繁栄時代に別れを告げることになるだろう」

淡々と告げられる事実にロイドがぐっと拳を握る。
やるせないと震えるのは彼だけではなかった。

「くそっどうにもならないのか? この歪んだ世界を作ったのはユグドラシルなんだろ!」
「ユグドラシルさまにとっては歪んでなどいない。どうにかしたければ自分で頭を使え……お前はもう、間違えないのだろう?」
「ああ、やってやる! 互いの世界のマナを搾取しあうなんて愚かな仕組みは、俺が変えさせてやる!」
「……フ。せいぜい頑張ることだな」

薄く笑って、彼はわたしの前に立つ。
なんだと一瞬怯むが、どこかへ連れて行こうとしているようには思わなかったから、わたしもクラトスさんを静かに見つめ返した。

「……ナギサ。お前にとって何よりも代え難い願いを果たしたいのなら、我々の下にくだるのだな」
「……仰る意味が、わかりませんが」
「今はそう言い聞かせればいい。だが、逸らしても真実は変わらない……お前は聡い。本当は薄々、わかっているのだろう」

小さく呟いて、彼もまた空へと飛び立っていく。
薄々、わかっている。その言葉が具体的に何を示すのかはわからない。心当たりもないはずだと、そう思ったけれど。……ミトスくんたちと同じ名前を持つユグドラシルの姿が浮かんで、わたしは首を振った。