53-4

「思い出したわ。あのプロネーマという女性。アスカード牧場の投影機に映っていたわ」

二人の姿を見送ってから、リフィルさんがそう声をあげる。
どうやら牧場でクヴァルと話していた五聖刃の長の女性らしい。あの時わたしとジーニアスとしいなは別行動をしていたから見覚えがなかったけれど、彼女がそう言うのであれば、間違いはないだろう。間違いなく、ディザイアンとクルシスは同じ組織だ。

「じゃあディザイアンじゃないか!」
「クラトスが邪魔しに来たし、やっぱりディザイアンとクルシスは同じ組織なんだね……」
「ユアンもクルシスと関係がありそうね」

羽が生えてたし、ユグドラシルに呼ばれて……とかなんとか言ってたしね。
クラトスさんと顔見知りのようだったことや、ディザイアン五聖刃の長であるプロネーマから「ユアンさま」と呼ばれていたのも気になる。
でもレネゲードはクルシスと敵対しているみたいだし……裏切り者や密偵の立場だったとして、どちらが本命なのだろう。

「あー混乱するなぁ! ようは、あいつら纏めて全部敵なんだよな」
「ええ。レネゲードに対しても油断は禁物ね。どちらもナギサを狙っているのが気になるし……」
「心当たりはまったくないのがまた気味が悪いなあ」

クルシスもレネゲードも、どちらもわたしを連れて帰ろうとした。
神子であるコレットをクルシスが狙うのは当然だ。レネゲードがロイドを狙う理由はまだわからないけれど、彼のエクスフィアは特別なものだと言っていたし、その関係だと思えば、まあおかしいことではない。
でもわたしはまったくわからない。しかも両方から、なんて、まったく心当たりがない。レネゲードに対しては借りパクしているエクスフィアのことかなと思ったけれど、基地の時点で狙われる発言があったので関係ないと思うし、クルシスはさっぱりだ。
ロイドにもコレットにも無いわたしの利用理由なんて浮かばない。もしかして、異世界から来たこととか? でも、だからって特別な力とか知識とかあるわけじゃないし……だめだ、わからない。
一度この問題は置いておいて、コレットに向き直る。今はもう懐かしく感じる柔らかな笑みを浮かべる彼女に、ジーニアスと一緒に笑いかけた。

「コレット、体は大丈夫? どう?」
「声以外も元に戻った? ちゃんと感覚とかあるの?」
「うん。だいじょぶみたい。みんなありがとう。心配かけてごめんね。凄く久しぶりにお腹も空いてきた気がするし」
「そうか!」
「……羽は、まだ出るみたいだけど」
「そ、そうか」

ひらひらと背中で動く羽は確かにそのまま。天使のまま。でも、にっこりと笑ってみせるコレットはどこまでもコレットだ。わたしたちの友達。可愛い女の子。
感覚を確かめるようにぴょんぴょんとその場でジャンプする彼女の様子に、自然とわたしたちの表情も緩む。

「う〜ん。やっぱり俺さまが見込んだ通り、コレットちゃんは笑ってると断然可愛いぜ〜」
「えっと、あなたは……ゼロスさん?」
「おお! 俺さまのことちゃんと覚えててくれたんだなぁ! 同じ神子同士、仲良くしようぜ〜」
「あ、よろしくお願いします」

差し出した手には気付かず、ぺこりと頭を下げる。
握手を求めたゼロスくんの手は行き場を無くしたが、それに苦笑するより先にリフィルさんが手を叩いた。

「さて、どうしましょうか? とりあえずコレットが心を取り戻せたのだから、無理にシルヴァラントへ帰らなくてもいいのだけど」
「決まってる。この後コレットみたいな神子を出さない為にも、二つの世界を同時に救う方法を探すんだ」
「うん、そうだね。しいなとも約束したもんね」

───シルヴァラントもテセアラも救う方法がないか、レミエルさまに聞いてみる

コレットが声を失った夜に、ロイドを通して言っていた言葉だ。
レミエルは結局その方法を知らなかったけれど、それでも二つの世界を救うという約束が果たせなくなったわけじゃない。
そう、約束はまだ果たせるのだ。

「プレセアは? いつまでも連れまわしてたら可哀想だよ」
「私……帰りたい……」
「あ、ケイトさんにプレセアちゃんを会わせないといけないよね? それを条件に逃げるのを見逃してもらったわけだし、放っておくわけにはいかないと思う」
「でもグランテセアラブリッジはもう通れないんじゃないかしら」
「そうだね……メルトキオにあたしの仲間がいるんだ。その力を借りてみよう」
「でもボクたち反逆者なんでしょ。メルトキオにだって入れないんじゃないの?」
「そいつは俺さまに任せとけ。メルトキオは俺さまの庭みたいなもんだ」
「よし、頼むぜゼロス」
「おっけーおっけー。どーんと頼まれちゃうぜ〜。さあ、俺さまのハニーたち。メルトキオへ出発だ」

軽くウィンクをして、彼は先頭になって歩き出す。
……どうもゼロスくんもうっかりしてるというか、簡単に罠にかかっちゃう人みたいだけど、大丈夫かな。まあ、罠にかかるくらいならなんとかなるか。そういううっかりさんなところはマナの血族の特徴なのかもしれないし。うーん、世界が違うから親戚なわけはないと思うけど、兄妹みたいって考えたら、ちょっとほっこりするかも。

歩き出したみんなの中で、ロイドだけは立ち止まったままコレットを呼ぶ。
わたしも立ち止まってその様子を眺めていると、彼は彼女に微笑んだ。

「コレット」
「どしたの? ロイド」
「おかえり」

ロイドの言葉にコレットは少しだけきょとんとして、それから久しぶりに見る満面の笑顔で頷いた。

「……うん! ただいま!」