メルトキオへこっそりと入る方法としてゼロスくんが提案したのは、メルトキオの下水道を通ること、だった。
最初に聞いた時はそんな汚いところ、とどうしても拒否感があったけれど、町の外へと排水されるそこは思ったよりも綺麗で拍子抜けする。ネズミなんかがいるのはまあ予想通りだけど、もっとこう、匂いがきつかったり、水自体が汚かったりするかと思ったけど……もしかしたら、元の世界でも下水道ってわたしが思うより汚くなかったのかもしれない。
勝手なイメージを押し付けてごめんなさい、といつもありがとうございます、と顔も知らない水道関係の職種の人に謝罪と感謝をしながら、野良ネズミと戦っている一軍のみんなを眺める。
もう封印はないけれど、今や三つの組織に追われているのだ。体力を温存しておくのは大事なこと、ということで、今も一軍と二軍に戦闘することは続行している。
「それにしても下水道だなんて、よくこんな抜け道思いつくよね」
「まーな。夜になると閉鎖しちまうから、どうしよっかなーって歩いてたら見つけちゃったわけよ」
一軍メンバーであるロイド、ジーニアス、しいな、リフィルさんをわたしと同じように見守っていたゼロスくんが、でひゃひゃ、と大げさに笑う。
真面目に戦闘の間も周りのゴミ圧縮機とか観察して何かに使えないかなと考えているコレットと比べて、わたしたちのなんとのんきなことか。まあ、プレセアちゃんもぼうっとしているだし、体力温存という意味では正しいと思うので許してほしい。
そもそも、つまりは朝帰りして締め出しくらった結果見つけた抜け道と聞いて、彼のだらしなさに呆れればいいのか、下水道を通ってでも家に帰ろうとしたことを褒めればいいのかわからない。
そっかあ、とちょっと適当に流せば、おいおいと肘で突かれた。
「ちょっとちょっと、もっと褒めてくれよ〜」
「そんなに褒めてほしいの? ……仕方ないなあ……ほら、じゃあ座って」
「え、ここで? 褒美が欲しければ跪いて乞えってこと?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ」
女王様……と呟きだしたゼロスくんにため息を吐く。あんまり無視するのも可愛そうだという慈悲だ。別に、うっかりさんなところがコレットに近いものがあるなと思って以降、ロイドと同じで背が高いだけの子供だな、とか、目を離しちゃいけないな、とか、思ったわけじゃない。
なんだかんだと言いながらしゃがみこんだ彼に、よしよし、と言いながらその頭を包み込むように額を軽く寄せて、ぽんと綺麗な髪を撫でた。
「よしよし、ゼロスくんはいい子だねえ」
「へ」
「みんなが欲しがっていた情報を持っているし、ちゃーんと周りに気を配っていろいろ考えてるし。さっきの戦闘でも頑張ってたよね。えらいねえ。頭を撫でてあげよう。あとこの前お尻叩いてごめんね。怒らないでくれたゼロスくんは優しい子だね」
よし、よし。なーんて掛け声と共にその頭を撫でる。
距離は近いけれど本当に抱きしめるわけじゃない、ものすごい子供だましの、ものすごい子供扱いだ。人によっては馬鹿にするなと怒りそうなものだけれど、突然のことに驚くので精一杯なのか、え、え、と戸惑うだけで、彼は特に抵抗することもなければ、わいわいと騒ぐこともない。
あちこち見て回って満足したらしいコレットがこちらに戻ってきても、彼は全然動かなかった。
「二人とも何してるの?」
「良い子のゼロスくんを褒めてる」
「わあ、じゃあ私も褒めていいかなあ」
「えっ」
「いいよ」
「ゼロスはいい子だねえ、すごいねえ、えらいねえ」
よ〜しよし、と道端で見かけた犬に対するみたいにコレットも一緒になって頭を撫で始めれば、彼はいよいよ一切の表情をなくした。ものすごい真顔だ。いや、すべての表情を失っているというか。これはどういう感情なのだろう。
なんだかだんだん不安になってきたところで、彼に表情を取り戻させたのは、戦闘を終えてこちらに走ってきたしいなだった。
「こら! 何やってんだい! このセクハラ大王が!」
「いってぇ!」
走りながら勢いをつけてゼロスくんの頭をひっ叩く。あまりにも遠慮がないそれに最初は驚いたけれど、二人は一応顔なじみとのことで交流があったらしく、以前からこうして気軽に喧嘩をしていたのだと説明された。
いや、気軽に喧嘩って、ちょっと変だけど。とにかくしいながゼロスくんに肉体言語でぶつかるのは、もう珍しいことではない。なのでわたしたちも冷静に彼らから離れて、元気だなあ、と眺めた。
「んだよしいな、ヤキモチか?」
「殴るよ!」
「殴ってんじゃねーか! でも助かった!」
しいながゼロスくんを蹴り飛ばして、さらに殴りかかる。綺麗なコンボだ。
思わず拍手を送っていると、彼は命からがら、といった様子でロイドの後ろに隠れた。
「おい、なんだよ」
「避難だよ、避難。それより、ロイド」
それまでのコミカルな表情を再び引っ込めて、真剣な様子で彼に肩をまわす。
そうして、ゼロスくんはロイドの目をしっかりと見つめた。
「俺はもう死ぬかもしれない……あとは頼んだぜ」
「いきなり何言ってるんだ?」