「ごめんね、コレット」
いつまでも廊下で話しているものでもないし、そろそろ休もう、と別れようとしたところで、ふと、ジーニアスの声が聞こえてきた。
悲しそうな声に思わずリフィルさんと顔を見合わせて、聞こえた方を……ジーニアスとに割り当てられた部屋を、申し訳ないと思いつつ少しだけ開いた扉から覗く。
「ボク、ずっと嘘ついてた。二人のことも信じきれなかったんだ」
ジーニアスは、ベランダでロイドとコレットにそう話していた。うなだれた彼の背中は、どこかいつもよりも小さく見える。
……コレットに、自分がハーフエルフだということを改めて話しているのだろう。コレットはあの時、まだ正気ではなかったから。改めて、今度こそは自分から伝えたいと思ったのかもしれない。
コレットはそんなジーニアスを見て、少し驚いた表情をする。でも、やがてふわりと笑って、ジーニアスの手を握った。
「いいよ。ジーニアスも前に言ってくれたことだよ。天使になっても友達だって。だからハーフエルフだったからって何も変わらないよ。ジーニアスは私の大切なお友達なんだから」
にっこりと微笑んで、強くそう言う。みんなが私に言ってくれたことだよ、と笑うコレットに、ジーニアスは泣きそうに表情を緩めたのがここからでもわかった。
でも泣き出すより先にロイドがジーニアスの肩を抱くから、彼が泣くことはない。にかっと笑った親友につられて、彼も笑ってくれるから。
「ほら、言ったろ。そんなの俺たちの関係を変えるようなものじゃないってさ」
「そだよ。私ジーニアスのご飯好きだし、一緒に遊ぶの楽しいし! 私だって神子だからって村で浮いてたけど……」
「俺もドワーフに育てられたからって浮いてたなー」
「でも私たち、仲良くなれたよ」
ね? と微笑む彼女は、イセリアにいた時と何も変わらない。わたしが初めて出会った時から変わらない、仲良しな三人組の、いつもの風景が、いつも通り、そこにある。
「……へへ。ありがとう。うん、ボク、二人のことが好きだな」
「私もジーニアスが大好きだよ!」
「ずっと一緒だぜ、親友!」
「うん! ずっと一緒だよ」
だからジーニアスも笑った。
泣きそうに笑う彼を中心に、三人は手を合わせて、そのまま星を眺めている。
「……テセアラでは、ハーフエルフへの差別を、幼い頃から一般常識のように教え込まれるのだと、ゼロスから聞いたわ」
一緒に彼らを見ていたリフィルさんが、ぽつりとつぶやく。
ハーフエルフは野蛮な生き物だと、虐げていい相手なのだと、この世界では当たり前に教えられて育つ。シルヴァラントのように、ディザイアンと同種族であるということに恐怖し嫌悪しているのではない。最初から、嫌悪する対象だと結論が出ているのだ。
そうしてハーフエルフを拒絶するから、ケイトさんのようにハーフエルフも人間を拒絶する。拒絶されれば、また拒絶する、の繰り返し。お互いの溝は深まっていくばかり。それはシルヴァラントも同じだった。嫌悪して、乱してくるから、ディザイアンを構成するハーフエルフを嫌う。嫌われるからハーフエルフも人間を嫌う。繰り返し。
一体何が最初だったのだろう。ハーフエルフだって、誰かと誰かが愛し合って、そうして望まれて生まれたはずなのに。
「そんな顔をしないでちょうだい。素直な感想と実情を教えてほしいと聞きだしたのは私よ。聞かせたくない、という顔をしていた彼も、なんだかんだと優しいところがあるのでしょう」
「……小さい頃から教え込まれていることなら、そう簡単に、認識が変わることは、ない、んでしょうね」
「ええ。だってそう教育されているのですもの」
それが正しいと教わってきたことを、今さら帰ることなんてできない。
わたしたちだってそうだ。だってそれが当たり前だと思ってきたのだから。いきなり全部間違いでしたと言われても腑に落ちないし、理解できない。そんな要望をされても突っぱねてしまう。
教育って、そういうものだ。
「……あなたたちと」
「え?」
リフィルさんは泣きそうに、ほほ笑んで
だからこそ、とささやいて
「あなたたちと出会えて、良かった」
───ナギサに出会えて、良かった。
思わず呟いたといったリフィルさんが、かつてのマーテルさんとかぶる。
でも違う人。まったく違うけど、わたしの大切な仲間。
「……わたしも」
だから、わたしも。
「わたしもみんなと出会えて、良かったです」