「……あなたたち!」
「約束通り、仲間を助けてプレセアを連れてきた」
前回は外へ出るために使った通路を使って地下室に現れたわたしたちを見て、ケイトさんは驚きの声をあげた。
やっぱり、信じきれてはいなかったのだろう。きっと戻ってこないと思っていた相手が戻ってきて、彼女は目に見えてうろたえた。
それでもまだ、嘘かもしれない、と怖がるように、けれど真実を知らなくてはならないと覚悟したように。彼女は恐る恐るリフィルさんとジーニアスに近付くと、信じられないと小さく息を零した。
「……ええ。間違いないわ。エルフの血と人間の血が融合した、この不思議なマナ。ハーフエルフが仲間だっていうのは本当だったのね」
「話は聞いていてよ。プレセアはクルシスの輝石を体内で作らされているとか?」
「ええ、そうよ。私たちはエンジェルス計画と呼んでいるわ」
「エンジェルス計画! 俺の……母さんが関わっていた研究と同じだ」
ケイトさんがプレセアちゃんの腕を掴むと、彼女はそれを勢い良くはたき落として離れた。
逃げるように距離をとった彼女の胸元で、赤く静かにエクスフィアが輝く。あれがその輝石になる前のものよ、とケイトさんは説明を始める。
「あのエクスフィア自体は特別な物じゃないの。ただ要の紋に特殊な仕掛けがしてあって、本来なら数日で行われるエクスフィアの寄生行動を数十年単位に延ばしているの。それでエクスフィアはクルシスの輝石に突然変異することがあるらしいわ」
「まさか、プレセアの感情反応が極端に薄いのは、エクスフィアの寄生が始まっているからなの?」
「それじゃあ以前のコレットと同じだよ!」
ジーニアスの泣きそうな声に、コレットが息を飲む。
彼女の反応や普段の様子からして、五感すべてが失われたわけではないのだろう。ただ、それだけ。かろうじて生きているだけ。ぼんやりと受け答えができるだけ。彼女が本当に心を動かしているのか、聞いているのか、何もわからない。
コレットは感情を失っていた間のこともぼんやりと覚えていると言っていたけれど……本当に、ただ、ぼんやりとそこにいるだけなのだろう。わたしのようにぼんやりと流されるように生きているのとは全然違う。自分として生きることを、奪われ続けている。
「このままプレセアを放っておいたら、どうなってしまうんですか?」
「寄生が終わると後は……死んでしまう」
「そんなの酷いよ! 助けてあげてよ! プレセアが何をしたっていうのさ!」
「……何も。何もしていないわ。ただ、適合検査にあっていただけ」
たったそれだけの理由で、プレセアちゃんは死んでしまう。
神子だからという理由で、コレットが死んでしまうのと同じだった。
思わずぐっと拳を握る。その隣で、ロイドが押し殺した声でケイトさんを見つめた。
「……約束だ。プレセアを助けてくれるな」
「ええ、わかってる。あなたたちはハーフエルフを差別しなかった」
ロイドに負けじと、真っ直ぐな目で彼女はわたしたちを見る。それに狼狽えたのは他の研究員だった。
だが、ケイトさんはそれをぴしゃりとはねつけて言葉を続ける。
「ケイト! いいのか? そしたらお前が……」
「約束は約束よ。プレセアを助けるためにはガオラキアの森の奥に住んでいる、アルテスタというドワーフを訪ねるといいわ」
「こっちにもドワーフがいるんだ」
「ええ。彼と私たちは教皇に命じられてこの研究に関わっているの」
「やっぱりあのヒヒジジイの仕業かよ」
「……ヒヒジジイなんて言わないで」
「おっと。ハーフエルフが教皇の肩を持つとは珍しいな」
「別に肩なんて持ってないわ。とにかく、彼女の要の紋をアルテスタに直してもらって」
「ロイドじゃ直せないの?」
コレットの問いに、ロイドはプレセアちゃんを見る。
だが、今までだって彼女と共に行動していたのだ。何か違っているならとっくに気付いていただろう。
予想通り、ロイドは悔しそうに眉尻を下げた。
「……正直言って、普通の要の紋とどこが違うのかわからねえや。そのアルテスタってドワーフを探した方が早そうだな」
「じゃあ決まりだね。ガオラキアの森へ行こうか」
「そうだな。それにしても、まさか教皇とディザイアンは繋がってるのか?」
「そうね。気になるわ……」
わからないことは、まだまだ多い。
まだまだ、わたしたちは何も知らない。
だから、できることを。目の前の誰かを苦しめるものをひとつずつ、なんとかしていくしかないのだ。