「何か……遠くから足音が聞こえる……」
だいぶ森を進んだあたりで、ふと立ち止まったコレットがそう囁いた。
わたしたちもそれに倣って耳をすましてみるけど、何も聞こえない。せいぜい木々が風に揺れる音がするだけだ。他のみんなも何も聞こえないようで、そろって首を傾げる。
「俺さまには何も聞こえないけどなぁ」
「コレットは天使としての聴覚機能を、まだ持っているのね」
「……やっぱり足音です。あと鎧の音。たくさんいるみたい。あっちから聞こえるよ」
コレットが指さしたのは、やっと見えてきた森の出口だ。
その出口の先に何があるのかを思い出したロイドが、思わず舌打ちをする。
「まずいな。あっちはアルテスタが住んでる方だ」
「もしかして教皇騎士団とか?」
「コリンを偵察に向かわせるよ」
ぼふんと煙を出して、コリンちゃんが出口に向かって駆け出した。
しばらくの間コリンちゃんの帰りを待っていると、突然木の上から何か大きな影が落ちてきて、わたしたちはいっせいに身構える。
予想よりも軽い音で地面に降り立ったその姿には見覚えがあった。囚人服に似合わない筋肉質な体格と手錠。それを見て、ジーニアスがあっと声を上げた。
「こいつ、メルトキオの下水道にいたやつだ!」
「次から次へと教皇のやつ! そんなに俺さまが邪魔かっつーの」
「私はお前たちと戦うつもりはない。その娘と話がしたいだけだ」
武器を構えるこちらとは対照的に、男は静かにそう告げる。
その視線の先にいるのはプレセアちゃんだ。そういえば、下水道の時にもプレセアちゃんを見て驚いていたようだったし、その言葉自体に嘘はないのかもしれない。
だからといって、はいそうですかと素直に通すほど、信頼もないのだけれど。
「プレセアと?」
「冗談じゃない! ボクらの命を狙ってたくせに」
「他の者たちは知らないが、少なくとも私はお前たちの命など狙っていない。私が命じられたのは、コレットとナギサという娘の回収だ」
告げられた言葉に、わたしとコレットはそろって首を傾げた。
レネゲードとクルシスからわたしの回収命令が出ているらしいことは知っている。わたしとコレット、そしてロイドは、この二つの組織のどちらかに必ず追われている立場だ。
でも、どうして囚人にまでわたしとコレットの回収命令が出ているのだろう。彼らの後ろにいるのは、下水道での言葉を思い出す限り教皇だ。脱走した反逆者という意味ならこの場にいる全員に差はないから、わたしたちだけをピックアップする理由にならないはずだ。
……あれ。なんか反逆者になっちゃったくだりで頭から抜けていたけれど、クルシスからはわたしとコレットが、レネゲードからはわたしとロイドが、そして教皇率いる教皇騎士団からは神子の立場を邪魔に思っているらしいことからゼロスくん、ハーフエルフということでリフィルさんたちが追われている状況になるのか。すごいな、みんなどこかのお尋ね者だ。何も嬉しくない。
「……私とナギサ?」
「今はお前たちに危害はくわえぬ。プレセア……といったか? その娘と話をさせてくれ」
静かに。だが強くそう懇願して、男はプレセアちゃんを見る。
そしてその胸に輝くエクスフィアに気付いて、その目を大きく見張った。
「エクスフィア!? お前も被害者なのか!」
思わず腕を伸ばした男の手は、他でもないプレセアちゃんによって叩き落とされる。
それだけで、彼女自身も警戒していると理解するのは簡単だ。少なくとも、今この場で彼女は男と対話することを望んでいない。
プレセアちゃんに危害を加えられるかもしれないと、ジーニアスとロイドは武器を構えた。
「プレセアが危ない!」
「何が何だかわからねえけど、とりあえずあの男を止めよう!」