「あっ!」
森閑の村オゼットに着いた途端、プレセアちゃんは一人で村の奥へと走り出した。
自分の家に戻ったのだろうというのはわかる。ようやく村に戻ってこれて安心したとか嬉しいとか、当然あるだろう。けれど、何も告げずに別れてしまった彼女にジーニアスは明らかに動揺して、すぐにロイドを振り返った。
「プレセア、待ってよ! ロイド、早く追いかけようよ」
「ああ」
「お前さん方、今プレセアと言ったかい?」
いざ追いかけようと足を踏み出したところで、入り口付近に立っていたお婆さんに呼び止められて再び足を止める。
彼女の知り合いだろうか。長い間振り回してしまったし、彼女が不在であることを心配していたとしたら、謝っておくのも必要だろう。
そう思ってその質問に素直に頷けば、お婆さんは露骨に顔をしかめた。
「あんな呪われた子……」
「呪われた子?」
「あの子に関わるのはおよし。あの子は病気の父親の代わりに、とても子供に扱えるはずのないような大斧を振るい始めた。その時から年をとるのもやめて、おかしくなってしまったんだよ」
年をとるのをやめた? その言葉がいまいち理解できなくて、わたしたちは揃って困惑の表情を浮かべる。
よく見れば、お婆さんだけでなく他の村人もそうだった。村に訪れた人が珍しいからかこちらの様子をうかがっているけれど、プレセアちゃんの話題が聞こえた途端、露骨に表情を歪める。
それはどこか……かつてヘイムダールでハーフエルフの話題を出したときのエルフたちに、似ているような気がした。
「あれはもう化け物だよ。あれに比べたらハーフエルフなんて可愛いもんだ」
お婆さんの隣に顔を出した青年がそう吐き捨てる。
心の底から蔑むような顔。気味が悪いと拒絶する目。恐ろしさを裏返した声。
とても気持ち良くないそれらに、苛立ちで耳の裏が熱くなるのを感じた。
「ば、化け物だなんて、そんな言い方……!」
「お前らよそ者にはわかんねえよ。プレセアと関わるんなら、そのままどっかに連れてってくれよ」
フンと鼻を鳴らして引き下がる青年とお婆さんを見送ってギュッと唇を噛む。
ガシガシと頭を掻いて、しいなが大きく息を吐いた。
「……よそ者、ね。確かにあたしたちはプレセアが本当に年をとってないのかも知らないけどサ」
「ハーフエルフ迫害と同じ理由だな」
「……とにかく、早くチビちゃんのとこに行こうぜ。俺様たち、ちゃんと事態を把握しきれてねぇんだからさ」
「そだね。はやくプレセアのところに行こうよ」
殊更明るく声を作ったゼロスくんに、コレットも便乗して笑顔を作る。それはどこかぎこちなかったけれど、指摘することは誰もしなかった。
自然と無言になって村の外れ……木の根でできた坂を下った先まで歩いて、ようやくプレセアちゃんの姿を見つける。
彼女の家だと思われる扉の前で、プレセアちゃんは眼鏡をかけた少し変わった風の男と話していた。あの男の人はどこか見覚えがあるようなするけれど……初めてプレセアを見た時に話していた男とは別人だと思うし、どこで見たんだろう。
会話を終えたらしい眼鏡の男はこちらを見て、あまり人に好かれなさそうな笑顔を浮かべた。
「あちらもお客様ですかな?」
「プレセア! 要の紋を作らないと!」
「仕事……さよなら……」
ジーニアスの呼び掛けを一言で断って、プレセアちゃんは家の中へと引っ込んでしまう。
もうわたしたちには何の興味もないようで、ちらりと振り返ることもしなかった。
「教会の儀式に使う神木は、プレセアさんにしか採りにいけないんですよ。やっと戻ってきてくれて、こちらは大助かりです。ふぉっふぉっふぉっ」
愉快そうに笑って、男は村の外へと歩いていく。その姿にはやはり見覚えがあって、誰だっけと記憶をひっくり返して……ああ、そうだ。メルトキオでコレットが犬を蹴り飛ばしてしまったときにいた人だ。
「思い出した。メルトキオで見た人だ。なんでここにいるんだろ」
「あの男……ハーフエルフだわ」
男の背中を睨むように様子をうかがっていたリフィルさんがそうつぶやく。
確かこのオゼットという村は、ハーフエルフ蔑視の強い村だと聞いた。とはいえ人間には判別できないし、堂々と中に入ることが悪いことでもないけれど……自分たちを嫌っているとわかっている村に近寄るなんて、あまりいい気分じゃないだろう。
それに教会の儀式に使う神木、と彼は言った。教会の儀式に関わるような人が、ハーフエルフかどうか検査されないなんてことあるのかな? しかもプレセアちゃんと知り合いだったみたいだし……疑問がつきない。
「どういうことなのか、とにかく一度プレセアと話した方がよかろう」
リーガルさんの言葉に頷いて、わたしたちはプレセアちゃんの家の扉を開いた。