アルテスタさんの家は切り立った岩肌をくり抜いて作ったような、パッと見た限りでは扉と窓しかない、とても簡素なものだった。
ある意味ではドワーフのイメージにぴったりであったが、ダイクおじさんの家を見た後だと少し粗末にも感じてしまうというか、住めればいい、という雑さを感じてしまう。いや、実に失礼な感想なので、誰にも言うつもりはないけれど。
とにかくここで間違いないようだと確認してから、ロイドが扉をノックして声をかける。数秒置いてから扉を開いたのは、ドワーフの男ではなく一人の少女だった。
「どちらサまでスか」
「……マーテルさん……?」
出てきた少女を見て、わたしは思わずそう呟く。そんなことないって、ちゃんとわかっているのに。思わず、勝手に、そう言葉が零れた。
それくらい、そこにいた少女は、かつて一緒に過ごしたマーテルさんにそっくりだったのだ。
編み込まれた緑の長い髪。懐かしさを感じる穏やかな翡翠の目。どこか機械じみたイントネーションを感じるけれど、その声も、わたしが何度も思い起こしていたものにとても近い。たぶん、身長も、わたしと一緒にいた時の彼女に近い、だろうか。いや、もう少し大きかった気もする。よーく見れば肌の色も彼女の方が焼けているかな。
でも違うのはそれくらいだ。だから思わずマーテルさんと呼んでしまった。
彼女は予想通り、それを否定して見せたけれど。
「いいえ。わたシはタバサといいまス」
「あ、ああ、そう、ですよね、すみません。あの、ここにドワーフが住んでいると聞いたんですけど」
「マスターアルテスタへご面会でスね。どうゾ」
そう家の中に招き入れられる。タバサちゃんは近くで見ても、やっぱりそっくりだった。
思わずじっと見てしまうわたしに、ゼロスくんがぽんと肩をたたきながら問いかけてくる。
「マーテルさんって、女神マーテルのことか?」
「ううん、違うの。昔の友達。すごく似てたから、びっくりしちゃった」
「ふーん……?」
何かを伺うようにゼロスくんがわたしを見る。わたしは正直、そちらに構っている余裕なんて無かったからあまり気にとめなかった。
それよりも見れば見るほどマーテルさんにそっくりな彼女が気になってたまらない。彼女の後ろ姿も、やっぱりわたしの知ってる頃のマーテルさんにそっくりだ。
どうして。どうして。あちこちから聞こえてくる勇者の名前だけなら、寂しくても誇らしくなれたのに。
ユグドラシルといい、彼女といい。なんで、なんでまた、こんなにも、二人のことを。
「なんじゃ、お前たちは!」
ぎゅっと手に埋められたエクスフィアを思わず握ったとき、部屋の奥から老人の声が聞こえた。
いつの間にか足取りが重くなって動けなくなっていたわたしに構わず、もうロイドたちはみんな奥に行ってしまっていたらしい。わたしも慌ててそちらに向かうと、タバサちゃんの傍らにいたのはダイクおじさんよりも深い髭をたくわえたドワーフだった。
「俺、ロイドっていいます。サイバックのケイトから教えてもらって、プレセアのことで来ました」
「タバサ。こんなやつらをここに入れるな。……帰れ! あの子の……プレセアのことはもうたくさんじゃ! さっさと出て行ってくれ!」
アルテスタさんは一方的にそう怒鳴ると、ロイドたちをぐいぐいと追いやってから作業場の奥へと引っ込んでしまった。
とりつく島もない、といった様子に呆然としてしまうと、タバサちゃんが慌ててわたしたちに頭を下げた。
「スみまセん。マスターはプレセアサんに関わるのを嫌がっておられるのでス」
「そんなぁ。プレセアがこのまま死んじゃってもいいっていうの?」
「ソうではないのでス。マスターは後悔シているのでス」
「後悔しているのなら、プレセアを助けてください。要の紋さえどうにかすれば助かるんでしょう? 他に頼める人がいないんです!」
ジーニアスとコレットの懇願に、タバサちゃんは少しだけ眉尻を下げる。
「……ソうシたとシても、ソれが本当に彼女のためになるのか、私にはわからないのでスが」
「死を待つだけの、あんな酷い暮らしより酷いことがあるもんか!」
タバサちゃんは今度こそ驚いたように目をぱちぱちとさせると、抑制鉱石を探せと呟いた。
本来要の紋に使用するのは抑制鉱石らしいが、プレセアちゃんのものは違うらしい。
だから、と詳しく説明しようとしたところで再びアルテスタさんの怒鳴り声が聞こえて、わたしたちはとりあえずアルテスタさんの家から出ることにした。