62-1

「プレセアちゃん? どうかした?」
「あ……いえ」

レアバード捜索の途中経過を聞くためにミズホの里に向かう途中。ガオラキアの森を歩く中で、どうもプレセアちゃんの元気がないような気がして話しかける。
彼女はまだ心を取り戻したばかりだし、何か不調があってもなかなか言い出せないのかもしれない。そう思っての行動だけれど、プレセアちゃんはそれに少しだけ戸惑ったような色を目に浮かべて、それからたどたどしく答えてくれた。

「本当に、時間が……過ぎていたんだなと、思いまして」

そういえば、村の人が「プレセアは年をとるのをやめた」と言っていたことを思い出す。
どういうことだろう、とあの時は思ったけれど。彼女の言葉や父親の様子を見るに、おそらく彼女が斧を振るうようになって数年が経っているはずだ。きっと、エクスフィアによって体の成長が止まっていたのだろう。
……自分と同じ血が半分は流れているはずなのに、違う時間の中に生きるから、人間はハーフエルフをと距離を取る。村の人から見れば、プレセアちゃんはそれと同じなのだろう。だから、あんな風に言ったのだ。
エクスフィアに寄生されたせいで心を封じられ、大好きな父親の状態を把握することもできず、いつの間にか自分以外の時間までもが過ぎ去ってしまっている。それを認識した彼女は、いったいどんな気持ちなのだろう。

「私は、時間に置いて行かれてしまったんですね……」
「……そう、だね。ちょっと寂しいよね。わたしは時間を置いて来ちゃった方だけど、なんとなく、寂しいよね」

すべてはわからないけれど、時間に置いて行かれてしまった感覚なら、なんとなくわかる。異世界に移動して、さらに古代時代から四千年も時代が進んだ現代へ。いつのまにか切り替わってしまった世界を認識した時は、本当に不安でわけがわからなくて寂しくて、途方に暮れた気持ちだった。
その時のことを思い出して伝えれば、プレセアちゃんが不思議そうにわたしを見上げる。そういえば、彼女だけでなくゼロスくんとリーガルさんにも説明していなかったな。後で二人にも説明しておいた方がいいかな。別に、そんなに言って回るようなことでもないけど、自分たちだけ知らないってなったら、それはそれで嫌かもしれないし。
実はね、と自分が異世界の人間で、ついでにタイムスリップも体験しているのだと簡単に説明すれば、彼女はぱちぱちとまばたきを繰り返した。

「そうだったんですか。ナギサさんは、時間を飛び越えてきたんですね」
「うん。びっくりしたよ。だって、誰もいないんだもん」

異世界に、わたしが慣れ親しんだ友達や家族は存在しない。
異世界に来てからずっと一緒に暮らしていたミトスくんもマーテルさんも、四千年も時が過ぎればもういなくなってしまっている。勇者の伝説として記録は残っているけれど……もう、彼らには会えない。
自分の知らないうちに、知らないところで、物語は進んでいって。そうして気付いた時には何もかもから置いて行かれてしまった。

「……時間は、戻らない。私たちも、かつての時間に戻ることはできない」
「うん。……もう、今のこの時間を生きるしか、ないんだよ」
「そう、ですね……今はもう、動き出した時間に、追いつくしかない、んですよね」
「追いつくのも、大変だよね。できる限りはお手伝いするから、何かあったら教えてほしいな。ちょっと違うけど、お揃いだし」
「お揃い……はい、お揃い、です。ありがとうございます」

ほんの少し。ほんの少しだけ、力が抜けてくれたのだろうか。
プレセアちゃんはまだぎこちなく、でも精一杯に笑ってくれた。