62-2

「どうしてコレットは、使い物にならないというのかしら」

ふと、ミズホの里が見えてきた辺りでリフィルさんが呟くのが聞こえた。
思い返しているのは、クラトスさんの言葉だろう。今の神子は使い物にならない、ロディルも放棄せざるを得ないだろう……あれは、どういう意味なのだろうか。

「あ、それ、俺も考えてた。神子なのに、マーテルの器になれないって意味か?」
「でも、そんなはずはないわ。神子として生まれ育ったのだから、素養はあるはず……もしかして、何か私達の知らないことがあるのかもしれないわね。ひょっとしてコレット自身は、それを自覚しているのかもしれない……」

なら尚更早く助けなくちゃ、とロイドが拳を握るのが見える。
連れ去られる直前、強い痛みを訴えた彼女のことが心配でたまらないのだろう。また口を開こうとした辺りで、おろちさんの姿が見えて、ロイドは口を閉ざした。

「ロイド殿、ちょうど良かった。レアバードのありかを発見した」
「うわあ、クラトスの言った通りだ」
「あいつ、知ってたのか……なんだってこんな、俺達を助けるようなことをするんだろう。敵なんだぜ?」
「でも、良かったです。これでコレットさんを助けに行けます」

クラトスさんの言動はどうにも謎の部分が多いけれど、確かに結果だけ見ればこれ以上なくいい調子だ。どうせ考えても答えが出るわけでもないので、とりあえず彼についての疑問は置いておいて、促されるままに頭領の家に向かう。
しかしミズホの民って本当にすごいな。見た目通り諜報活動が得意な忍者っぽい。そのうち陰分身の術とか使ってくれないだろうか。
そんな馬鹿なことを考えながら頭領の家に入れ、レアバード、もといレネゲードの基地の場所がわかったことと、そこにミズホの民を潜入させていることとを説明された。

「そこでだ。しいなよ。レアバード奪還前に、お前に試練を与える」
「試練ですか。なんなりと」
「ヴォルトと契約をすませるのだ」
「!!」

タイガさんの言葉に、しいなの顔色が変わった。
驚きというよりは、恐怖だろうか。顔を真っ青にして、タイガさんを凝視している。

「レアバードを奪還しても、ヴォルトのマナが尽きればまた墜落するだろう。なんとしても、先に契約を……」
「で、できませんっ!」

裏返ったしいなの声が響く。
いつもの様子とはまるで違う。顔色だけじゃない。体も震えて、何かに怯えるようにしいなは弱々しく首を振る。

「あ……あたしには、とて……も」

思わず声をかけようとしたところで、しいなは家を飛び出してしまった。
その尋常でない様子に、だがタイガさんは「やはりか」と小さく呟く。仕方ない、とどこか悲しそうな表情は、彼女があれだけの反応を見せる理由を知っているからだろう。当然、ロイドが質問を投げかける。

「どういうことなんですか」
「しいなはかつて、ヴォルトとの契約に失敗しているのだ。その中を覗いて見られよ」

示したのは、部屋の隅にある蚊帳だ。
よく見ると、そこには一人の老人が眠っている。

「この人は……?」
「我らが頭領、イガグリだ。頭領が目を覚まさぬのも、そのときの事故の所以なのだ」

……数年前。しいなに召喚士の素質があると知って、里の近くにあるヴォルトの神殿に赴き、契約をしようとした。けれど、それは失敗し、里に大きな被害を出した。
それ以降、頭領は眠り続けている。目を覚まさずにいる。その時の経験を、しいなは今もずっと、引きずっている。
だからウンディーネと契約する時も、した後も。ずっと不安そうにしていたのだろう。きっとトラウマになってしまっているのだ。そして、だからこそ、しいなに乗り越えてほしいと、タイガさんはつぶやく。
その声を聞いて、ロイドもまた家を出て行った。