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「ミズホの民の四分の一が死んじまったって聞いてるぜ」

飛び出してしまったしいなを迎えに行くのはロイドに任せよう。そう判断して、わたしたちは頭領の家の近くで思い思いのことをしながら待機していた。
こういうのは大勢で行くものではないという判断でもあるし、ロイドとしいななら絶対に立ち向かえるようになるという信頼でもある。それに、彼はこういう、誰かの気持ちに寄り添うのがとても上手だから。だから、誰も彼女が立ち上がれないかもしれないなんていう心配はしていなかった。

リズムよくけん玉を操るジーニアスと、それを眺めるプレセアちゃんの二人を眺めていれば、同じ木陰で休んでいたゼロスくんが、件の事故について説明してくれる。
ヴォルトとの契約が失敗した時のこと。大きな事件だったから神子の耳にも簡単にだけれど入ったこと。それからずっと、彼女はこの里で浮いた存在になっていたこと。
きっと本人からは聞けないだろうことを、彼はただ、事実の羅列として教えてくれる。客観的なそれは少しだけ冷たいようにも聞こえるけれど、絶対にしいなが悪いとか、そんなことは言わないあたり、しいなのことを気遣っているのだろう。彼はちょっと、わかりにくい優しさの人だった。

「いくら任務だったとは言え、内心じゃしいなをよく思ってないヤツも多いだろうなぁ」
「ヴォルトの話をする度に、なんか変だったのは、そのせいだったんだね。……逃げ出しちゃったのも、仕方ないよねえ」

もし、自分のせいで誰かをたくさん死なせてしまったら。それが、とんでもなく苦しいことだと、わたしたちは知っている。……イセリアでのこと、まだ、ちゃんと覚えている。
わたしたちがしたたった一つの出来事のせいで、関係ない人達が死んでしまった。申し訳なくて、苦しくて、でも苦しいって思うのも悪い気がして、どうにもならない。ただ……ただ、わたしたちの場合は、追放という形で罰を与えられたから。だから、償いをしなくちゃと前を向いて、コレットを追いかける理由にもなれた。逃げることと前を向くこと。それを、追放という罰のおかげでできたのだ。
でも……もし、仕方なかったよと言われて。たくさんの犠牲を出したのに、事故だったからと慰められて。そうしていつまでもその場所にいることになったら。大切な人を失った人たちの視線を受け止め続けなければいけないなら。
それだって、ひどく、恐ろしい。

「でも意外。ゼロスくんなら慰めに行くかと思った」
「そういうのは、オレ様よりロイドくんのが得意でしょ〜?」
「確かにロイドはそういうの得意だよね。尊敬するよ。わたし、慰めるのとか、すごく下手だから……」
「そうだな。苦手だからって避けるのもどうかと思うけど」
「ゼロスくん……」

ふいに投げられた言葉に、思わず彼を見る。
それは、その通りだ。苦手だからって避けるのは決していいことではない。その通り、だけど。それが難しい。難しいって……ずっと言い訳をしてきたので、すごく難しいことだ。
でも、この世界に来て、いろんなことがあって。いろんな人と出会って。わたしの中でいろんなことが変わったし、きっとこれからも変わっていくんだろうなって、そう思うような出来事がたくさんあった。
事なかれでいては、何も守れないこと。感情任せに怒っても、事態は悪化するだけで何も変えられないこと。それでも……何かを変えたい、変わりたいって本気で思うなら、変われるってこと。そのために必要なのは、勇気だけのこと。
なら……わたしも、誰かに寄り添った言葉を、伝えられるようになるだろうか。

「……なぁ、ナギサ。ミトスくんってのは、君にとってのなんなんだ?」

ふと、いつもよりも真面目そうな表情でゼロスくんが問いかけてくる。
珍しく、名前を呼び捨てにしてまで問いかけることなのだろうかと思うけれど、彼の目は真剣だ。真剣に、ミトスくんのことを聞いてくる。
これは、前回里に来た時にちらりとした、ミトスくんがわたしの好みである、という話の続きなのだろうか。あの時からそれなりに時間も過ぎたのに、まだ気にしてるのか。

「ゼロスくん、やけに気にするね?」
「そりゃそ〜よ。可愛いナギサママの思い人だなんて美味しい立場にいる奴のこと、気にしないはずがないって!」
「うわーなにそれ」

大げさに言ってのける姿に、思わず呆れて苦笑してしまう。
まあ、うん、テセアラ組にはあまりミトスくんの話してないもんね。イセリアに住んでたときは気付いたら喋ってたけど、旅に出てからはいろいろあったし、断片的に聞かされたらやっぱり気になるのかな。
ゼロスくんとリーガルさんにはまだ説明しきれてないし。そのうちどこかでまとめてやろう。

「わたしにとって、か。うーん、やっぱり大切な子だよ。守ってあげたくて、支えたくて、ずっと一緒にいたくて。でも約束守れないまま別れちゃったから、せめてもう誰との約束を破らないって決意するきっかけで……幸せに暮らしてくれてたらなって、思ってる」

あの子が勇者ミトスとして頑張って、頑張って、生きた、その最期。
死んでしまうそのときまでは、幸せを感じて生きていてほしい。
マーテルさんと一緒に。もしくは大好きな人と一緒に。
……寂しいけど、わたしじゃない誰かと一緒に幸せになってくれてたら、いい。

「でもそうだな……思えばあの時ミトスくんがわたしを助けてくれたから、今ここにわたしはいて、なんとか生きることができて、みんなに会えて、旅が出来て…………って思うと、うん。恋愛とか置いといて、わたしにとってかけがえのない人、かな」

もちろんマーテルさんもわたしにとってかけがえのない人だ。彼女がわたしにいろんなことを教えてくれた。でも、最初のきっかけって言ったら、ミトスくんが勇気を出して見ず知らずの人間であるわたしを助けてくれたことだから。
彼のあの、強くて、優しくて、まっすぐな目が、今もずっと忘れられないから。

「ふぅん……つまり、恋してる人じゃなくて、愛してる人ってことか」
「ああ、そんな感じかもね」
「……べたぼれだねぇ。お熱いこって」
「いやまあ、大好きだけど、そういう意味ではないんじゃないかな」
「あらま、かわいそ」

何故かゼロスくんは楽しそうに呟く。
それが不思議だったけど、別に気にすることじゃないかなと話を続けた。

「心配しなくても、わたし、ゼロスくんも幸せに暮らしてくれたらって思ってるよ」
「え? オレさま?」
「ゼロスもコレットも、しいなも。他のみんなも。幸せに暮らしていけたらいいなって」

そんな簡単に叶うはず無いけどね。
でも、この旅は、そのための旅だって思っているから。
みんながみんな、幸せに。自分らしく、暮らしていける世界にするために。かつてミトスくんが大樹の前で誓ったように。ロイドが説いた理想のように。
そんな夢みたい世界を、目指す旅。

「……ときめかせるねえ」
「この言葉にときめくってことは、ようはロイドにときめいてるってことだよ」
「はは、違いない」

君もわたしも。幸せに暮らしていけたらいいな。