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ロイドとしいなが戻ってくるのを見て、わたし達は改めてヴォルトのいる雷の神殿へと向かった。
そこはミズホの里から離れておらず、なるほど里の人達がかつて契約に挑戦したのは立地の条件もあったかと勝手に納得する。だからこそ、被害も大きかったのだろう。
緊張した面持ちのしいなに、わたしは何をしてあげられるんだろうと考えながら歩ているところで、ふと、何か考え込んでいるリフィルさんに気付いた。

「あれ。リフィルさん、どうしたんですか? 浮かない顔をしてる」
「ああ、今回の契約のことなのだけれど……以前書物で読んだの。ヴォルトはかなり特殊な言葉を使う……人間には判読不能、とあったわ」
「それじゃあ、契約はどうしたらいいんですか? わからないんじゃ、話も出来ないんですよね」
「そうなのよ。私に通訳できればいいのだけど……」

以前の失敗もそれが原因かもしれない、と考え込むリフィルさんだったが、雷の神殿が見えてくる頃にはいつもよりずっと軽い足取りになっていた。
久しぶりの遺跡モードで、鼻息荒く神殿を観察している。もう先ほどの不安などどこにも感じられない。

「おお、ここには石版がない! 何故だ!? そうか、繁栄世界では入り口の封印を解く必要がないのだろうな。興味深い!」
「ちょ、ちょっと、どうしちゃったのよリフィルさま……」
「気にしない方がいいよ……」

リフィルさんのこの状況は、以前トイズバレー鉱山でも見たと思うのだけれど。古代の遺産を食いつぶしているのかと怒っていたあの時と比べれば勝手に盛り上がってるだけだし……と慣れてしまったわたしたちは放っておきがちだけど、まだまだ慣れていないテセアラ組はその変化に追いつけないらしい。
雷の神殿は、その名に相応しく、神殿の中だというのに建物自体が雷を帯びているようだ。たまに落ちてくる雷をなんとか避けつつ、初めてのテセアラ側の神殿ということでずっと遺跡モードのままのリフィルさんをなだめつつ、祭壇へと向かう。

「しいな」

奥に近付くたびに、コリンちゃんを抱きしめている腕に力が入る。ずっとコリンちゃんが話しかけてくれているみたいだけれど、それでも、トラウマの場所に来れば、それまで以上にいろんなことを思い出して足がすくんでしまうのだろう。
緊張で青白い顔をしたしいなを呼び止めれば、彼女は今にも倒れそうな顔色の悪さでこちらを向いてくれる。……こんな彼女に、かけられる言葉なんて、やっぱり思いつかない。思いつかないけれど、何かはしたくて。自己満足、と思いながらも、わたしはその手を握った。

「わたし、こういうのへたくそだから、うまく言えないんだけど……わたしたちずっと、一緒に戦ってきたんだもん。今回も、一緒に頑張ろうね」

みんながいれば大丈夫だから。一人じゃないから。絶対に成功するから。
上手く言葉にならない気持ちも全部手のひらに集めて握りしめれば、コリンちゃんもぱあっと表情を明るくして、ほらね、と声を弾ませた。

「ほら、言ったでしょ、しいな! 一人で戦うんじゃないもん、大丈夫だよ! 何かあっても、コリンがちゃんとしいなを守るから!」
「……あんたたち、ほんっとに……」

それ以上、しいなは何もしゃべってくれなかった。けれど、わたしたちの気持ちは、ちゃんと受け止めてくれたんだと思う。
どれだけ力になれるかはわからないけれど、ぎゅ、と握り返された手が、すべてで。この手は絶対に離さないぞって、思った。