「ああもう、狭いな!」
飛龍の巣は先ほども言ったようにあまり広くない。だというのに、わたしたちの相手をしているのは子供の飛龍が三匹と巣を覆い隠すほどの大人の飛龍が一匹という大所帯。
彼らだけで十分場所をとるというのに、乱闘状態の今では足場の確保すら難しくなっている。思えばこちらも九人の大所帯メンバー。そりゃあぎゅうぎゅうだ。
帯で叩き付けながら思わず文句を零すと、すぐ隣にきていたゼロスくんがぐいっとわたしとしいなを掴んだ。
「……よし、ナギサちゃん! しいな! いっちょ飛んでみようぜ?」
「はっ?」
何を言い出すんだ、と二人して間抜けな声を出す。
だが彼はにんまりと笑うだけで、そのままわたしたちの足下に剣を差し込んで、いつぞやの複合特技みたいに飛び上げた。
「だ〜いじょうぶだって! 身軽なしいなと一緒に、上から頼むぜぇ!」
「うわああっ」
体が高く上がって、飛龍たちよりも上空で一瞬だけ滞空する。
いくら場所を空けるためだからって、これはない!
「ゼロスくん許さないからー!」
「いきなり投げる奴が、あるかいっ! 炸力符!」
仕方ないから隣にいるしいなと同様、そのまま飛龍に帯を叩き付けて、さらにその反動でもう一度飛び上がってから次の攻撃に繋げる。ひょいひょいと空中を動き回るようなそれに、わたしは戦闘中だというのに、思わず感動してしまった。
……だって、すごく、しいなみたい! っていうか、ゲームみたい! エクスフィアを付けてるからってこんなに動けるものなんだ!
「受けよ! 牙連絶襲撃!」
上に飛び上がろうとする飛龍を打ち落として、ロイドたちの攻撃が通りやすくする。そうしてわたしたちが再び地面に足を着けたときには、リーガルさんの重たい足技が決まって、やっとすべての飛龍を倒しきったところだった。
よかった。最後に尻餅はついたけど無事だ。あとはコレットを連れて帰るだけ……そう思って、ほんの少しだけ油断した時だ。
「……もうダメ!」
コレットの悲痛な声が響いて、どんっと衝撃が走る。
何かに押さえつけられるような重圧を感じて、わたしたちはみんなしてその場に這い蹲る……そして地面に見たのは、巣全体を覆う光だった。
どこか禍々しく輝くそれが、わたしたちを体の内側から捕らえて押さえつけている。
「か……体が、動かない!」
「なんなんだ、この禍々しい光……は」
「これは……コレットだ! 感じる……コレットの体内のマナが、ボクたちの方に逆流してきてるんだ……どうして……!?」
「あれ、よ……見えるでしょう、コレットの足下の、魔法陣。あれのせいで、マナが……」
「コレット! なんとかして逃げるんだ!」
「ダメ……鎖が……解けないの。動けないよ!」
ロイドの叫びに、だがコレットは泣きそうな顔で首を振った。
彼女を絡め捕る鎖は非常に太く、いかに彼女が怪力であろうと自力では解けそうにない。
それではこのままみんなして動けないままなのか。どうにかしてあの魔法陣を、もしくは鎖を解く方法を、と必死に考えていると、コレットがぽろりと涙をこぼすのが見えた。
「ごめんね、みんな。みんなだけでも逃げてほしいのに……ごめんなさい……私やっぱり、ロディルの言うとおり、出来損ないの、罪深い神子だね……」
「ちがう!」
強く否定したのはプレセアちゃんだ。
彼女は斧を支えにしてなんとか立ち上がりながら、声を振り絞る。
「ちがい、ます。順序を取り違えないで、コレットさん……あなたは、悪くない……悪いのは……神子に犠牲を強いる……仕組み」
ずるり、ずるりとコレットに近付いて、斧を握り締める。
ついに目の前まで近付いたところで、彼女はその体に見合わない大きな斧を振り上げた。
「……私が、あんなことをしたから……私のせいで!」
「プレセア……!?」
「やあああっ!」
ガキィィィンと音を立てて、コレットを縛り付けていた鎖を壊す。
おそらく鎖が、この光の起動スイッチにもなっていたのだろう。同時にわたしたちを押さえつけていた重圧も光も消えたのを感じた。
「プレセア、ありがとう! なんてお礼を言ったらいいか……」
コレットがそう笑いかけたとき、ずしんと音が響いて地面が揺れた。
……ここは空に浮かんでいるのだから、地震なんて有り得ない。周りの景色がゆっくりと上昇するということは、わたしたちが下がっているのであって……つまり、落ちているのだ。
「おいおい、足場がヤバいぞ!」
「早くレアバードのところへ!」
「プレセア!? しっかりなさい」
慌てて逃げ出そうとして、先ほどの反動か気絶してしまったプレセアちゃんをリフィルさんと一緒に抱える。このまま背負った方が確実だ。レアバードの二人乗りも慣れている。
リフィルさんに手伝ってもらいながらしっかりとプレセアちゃんを背負って、わたしとロイドは未だに中心に立ちすくむ彼女に向き直った。
「コレット」
「俺たちも早く逃げよう」
「私……私、いいの?」
……生きても。みんなと一緒にいても。
きっとそう続くだろう言葉に、わたしたちは笑った。
「何言ってるの。プレセアの頑張りを見たでしょう?」
「生きるんだ、一緒に!」
「……う、うん!」