「うーん……」
もうみんなが寝静まって、月明かりしか光源がないような、そんな遅い時間。
わたしは一人、アルテスタさんの家から少しだけ離れた場所にある小さな岩に座り込んで、ため息を吐いていた。
この眠れない夜に考えているのは、ミトスくんのことだ。
遠い昔になってしまった時代。わたしにとっては、一年くらい前の時代。異世界に来たばかりのわたしを助けてくれて、一緒に暮らしてくれた、優しい姉弟のこと。
彼らを思い出さない日なんて、ほとんどなかった。でも、ミトスくんにそっくりなハーフエルフの男の子を目の前にして、動揺しないはずもなくて。どうにも寝付けなくてたまらないから、こうして一人で外に出てみた。
似ている、という意味では、タバサちゃんもマーテルさんに似ていたけど。それでも彼女は自動人形であるからか、それとも名前も何も違うからか。驚きはしたけれどあまり引きずることはなかった。
でも、ミトスくんは。ミトスくんとミトス少年は、本当に、同じに思えてしまって、すぐに割り切れない。こんなの失礼だ。ジーニアスの友達になった彼を、全然違う人と重ねるのは失礼だ。そもそも、彼も否定したのだし、同一人物のはずがない。
わかっているのに、どうしてだか、きちんと割り切れない。
「そんなわけないのに……」
「どうしたんですか、ナギサさん」
「うわっ?」
背後からかけられた声に驚いて声をあげながら振り返ると、そこには申し訳なさそうに立つミトス少年がいた。
驚かせてすみません、とうなだれる姿もミトスくんそのままで、わたしは慌てて首を振って、その既視感を振り払う。
だめ。違うよ。今話している相手は、目の前にいるのは、違う人。
「あ、ごめんなさい! その……ボクです」
「こ、こんばんは。えっと……どうしたの? もう遅いよ……眠れない?」
「少し……気になってしまって」
もう夜も遅いよと、なるべく優しく声をかけると、彼はごめんなさいと言って、わたしの隣に腰掛ける。
どうやら、わたしに用事があって、こんな時間に話しかけてきた、らしい。もっと早い時間にすればいいのに、というのは、カレーを作っている間には叶わない要望だし、その後もずっとジーニアスやロイドと過ごしていたみたいだから、機会がなかった、ということだろう。
それほど何を気にしているのか、想像できないわけじゃない。でも、そこまで気にすることじゃないとも思うから、この予想が外れたらいいなって、思ってる。
そして、ミトス少年は、ミトスくんと同じ瞳と同じ声で、問いかけた。
「どうして、泣いたのかなって」