「すまないが、私はここで待たせてもらう」
アルタミラの入口まで来たところで、突然リーガルがそう言って立ち止まった。
いったいどうしたのだと聞いても彼は黙ったままだ。おそらく、話したくない、ということだとは思うのだけれど。リゾート地だというこの町に囚人服で入りたくない……というわけでもないだろうし。この町に何かあるのだろうか。
「だんまりか。まあ、言いたくないならいいんじゃねえか。ロイド、言う通りにしてやれよ」
「わかった。帰りに声をかけるよ」
あっさりと了承したロイドとゼロスくんに礼を言うのを見て、わたしはこっそりと感心する。ゼロスくんのことだ。先日、プレセアちゃんに無理に許す必要はないと言ったり、今回も言いたくないなら仕方ないとロイドの背中を押したり。意外と距離感を計るのがうまいというか、つかず離れずの距離を掴むのがうまいな、と思う。
どうにもシルヴァラントから一緒のみんなはお人好しで、困っているなら助けになりたいと自分から距離を詰めていくことの方が多いから、なんだか新鮮だ。今度褒められたいと言ったらこの部分を褒めよう。なんて思いながら、わたしたちはその町の門をくぐる。
「ここがアルタミラか……」
南の楽園。有名なリゾート地。そんな話は聞いていたけれど、視界に入ってきた景色を見て、わ、と思わず声を漏らしてしまった。
だって……きっと、異世界に来てから見た景色の中で、一番賑わっている景色だ。知らない場所のはずなのに懐かしさを感じるのは、元の世界にいる時に写真などで見た海のリゾート地の写真と近い世界がそこに構成されているかもしれない。
美しい海と、楽しそうな人たちの笑顔。綺麗に整備された道には露店も出ているし、水着を着た人たちが楽しそうにあちこちではしゃいでいる。なにより高層ビルのようなホテルが目の前にどんと建っており、モノレールで別のエリアに移動することができるらしいシステムが、いつぞやに訪れた観光地や遊園地を思い出して、自然と心が浮ついた。
「すごい賑わい。観光地として有名なんだっけ?」
「そうそう。海の楽園、昼は遊園地で、夜はカジノで水着美女とうっはうはの……あいてっ」
「アンタはまたそういう情報ばっかり!」
「本当に楽園なの?」
べしんと思い切りしいなに叩かれるゼロスくんを、ジーニアスが白い目で見る。
もうお約束のやり取りだけれど、まあ、こんな説明をされたらちょっといかがわしい場所みたいに聞こえるし当然か。
ミトスも困った様子で眉を下げて、ちゃんと有名な観光地だよ、とジーニアスに向き直った。
「アルタミラに来たのは、ボクも初めてだから……でも、あっちに遊園地エリアがあって、大人も子供も楽しめるって聞いたよ」
「そっかあ。じゃあ今度、みんなで遊びに来たいね」
「わあ、いいねえ! 私、あの、ぐるぐるーって回ってるカップ、乗ってみたいなあ!」
「俺はあっちのガーって動いてるやつ!」
遠く、わたしにはシルエットくらいしか見えないけれど、コレットが言うのはたぶんコーヒーカップのことだろう。ロイドのはジェットコースター。ちょうどここから見える位置までレールが伸びて、あの懐かしい駆動音と共に悲鳴のような歓声が聞こえてくる。
じゃあ、あれは素直に観覧車かな。違う世界の遊園地だからって、見ず知らずのアトラクションばかりではないらしい。……ちょっと、わたしも遊びたいな。
「おうおう、元気だねえ子供たちは。ま、シルヴァラントの田舎者たちじゃあアルタミラは珍しさでいっぱいか」
「なんだよゼロス、いいだろ。プレセアとしいなはアルタミラに来たこと、あるのか?」
「あるわけないだろ、諜報で潜入してる民はいるだろうけど、あたしは初めてだよ」
「私もありません。そもそも、アルタミラは富裕層向けのリゾート地ですから」
どうやら、このメンバーでアルタミラ経験者はゼロスくんだけらしい。
まあ、確かに。忍者が遊園地に来るイメージはあんまりないし、プレセアちゃんの事情を考えれば、来れたとしてもずいぶんと前のことになってしまうだろう。その時からこの町があるのかはわからないし、ミトスも、いろいろと難しそうだ。
「そっか……じゃあ、ある意味ここに来ることになったのって、すげえ貴重なことってことか。……な、ジーニアス。だったらなおさら、お前も先生と一緒にさ、こういうところで遊んでみたいよな」
「……うん、そうだね。ボクも姉さんも、こんなところで遊べたことなんてないし。ちょっと憧れちゃうかも」
「憧れてばっかじゃ退屈だろ。あっちには劇とかもあるみたいだし、とっとと先生を見つけて、みんなで遊ぼうぜ!」
「……うん!」
ぐんぐん歩いていくロイドの背中に続いて、みんながまずはあのホテルの近くにいる人に聞いてみよう、と歩き出す。
全員で同じ人に聞くのはちょっと圧力があるから気が引けるので、お互いが見える程度のほどほどの距離を意識して別の人に話しかけることになった。
「ロイドはすごいね」
わたしもちゃんと何か聞き込もう、リフィルさんは美人だからわりと印象に残っているかも……と露店の人に狙いを定めたところで、そんなつぶやきが聞こえて足を止める。
つぶやきの主はミトスだ。彼は、ジーニアスとコレットと共に着ぐるみに話しかけているロイドを眺めている。どうしたのと視線で問えば、彼は少しだけ気まずそうにして。それから、静かに首を横に振った。
「心配してないわけじゃないのに、いつも通りだから。……いつも通りの日常がそこにあるって、きっと、安心するんだろうなって」
「そうだね。そこがあの子の魅力の一つかもね」
いつも通りのことを、いつも通りに振舞うのは、簡単なようで難しい。
当たり前にいつも通りの日々をくれる人は、とてもすごい人だ。
だからこそ、彼にもロイドが眩しく見えたのだろう。少し泣きそうに、眩しそうに目を細める彼を見て、改めてロイドの強さを認識したような気がした。