「……アリシア! アリシアか!」
にぎわう大通りから少し離れたところまで来たところで、突然そう話しかけられる。
と言っても、声をかけられたのはわたしじゃない。わたしの隣にいたプレセアちゃんだ。驚いたように彼女に別の名前を呼びかけた初老の男性は、振り向いたプレセアちゃんにたじろいだ。
「アリシアを……知っているんですか?」
「え? お前さんはいったい……」
「アリシアは……私の姉妹です」
ジョルジュと名乗ったその人は、そうか、どうりで……と言葉を止める。
それから、プレセアちゃんを見て懐かしむように、涙ぐみながら静かに目を伏せた。
「おおお……そうか。そうだな。アリシアはずいぶん前に亡くなったのだ。こんなところにいる訳がないな……」
「……亡くなった……!?」
「どういうことなんだ?」
驚くプレセアちゃんを見て、彼は言いにくそうに目をそらす。
それはそうだろう。姉妹がなくなった、という話を、好き好んでするはずがない。
それに、どうしてそれを知らないのだという驚きもあっただろう。いつぞやのゼロスくんの家にいたセバスチャンのようにきっちりとしたスーツを着てリゾート地を歩くような人が、その連絡を家に送っていないはずがない。
けれど彼は、こちらの詳しいことは聞かずに、言い聞かせるように口を開いた。
「アリシアは貴族のブライアン家に奉公にきていたのだが、事件に巻き込まれて、亡くなってしまったのだよ」
「亡くなったんですか……! どうして……!」
「それは私の口からは言えぬ。許しておくれ……」
懺悔するようにうつむく彼の表情からは、強い後悔を感じる。言えない、というより、言いたくないのかもしれない。
いったい何があったのかはわからないけれど、驚きで声も出せずにいるプレセアちゃんを痛々しそうに見ると、懐から一枚のカードを取り出した。
「この町にあるレザレノ・カンパニー本社の空中庭園にアリシアの墓がある。よかったらそこへ行っておあげ。妹が来てくれればアリシアも喜ぶ」
そう言って渡してきたカードは、どうやらレザレノ・カンパニーの社員証らしい。確か、この町を管理している大企業の名前だ。
彼はわたしたちに一礼すると、そのまま歩いて去ってしまった。
……その背中を見送ってから、少しだけ疑問に思っていたことを、ジーニアスが口にする。
「妹? プレセアがお姉さんじゃないの?」
「変だな? 妹がいるって聞いてたのに……」
「きっと三人姉妹なんですよ〜」
「ンな馬鹿な……」
ちょっとのんきに聞こえる会話を流しながら、わたしはプレセアちゃんの手を握った。
……彼女は、エクスフィアに寄生されている間、年を取るのをやめていた。時間に置いて行かれてしまった。
だからきっと、彼女の妹は、もうとっくに彼女より年上に見えるのだろう。姉妹の年齢が逆転してしまうくらい、きっと時が経っていたのだろう。彼女がどれくらいの間時間を失っていたのかはわからないけれど……きっと、そういうことなのだ。
でもそれをわたしから説明するのは変な気がして、彼らの会話に混ざらないまま、プレセアちゃんを見つめる。彼女は手のひらにある社員証をしばらく眺めてから、ぎゅっと、それを胸に抱いた。
「……私が、手紙や連絡を受け取れなかっただけで……今も、元気にしていると、思っていたのに……」
きっと、本当に手紙は来たのだろう。ただ、彼女はそれを手にすることはできなかった。読むことのできなかったその手紙は、もしかしたらまだ家にあるのかもしれないけれど……もう、今さら読んだところで、遅い。
父親と同じように、彼女の知らない間に、彼女の家族は逝ってしまった。
意識が目覚めて、時間が過ぎ去ったことを知って、自分の大切な人たちがとっくに死んでしまったことに気付く。
その感覚はわたしにも覚えがあって……だからこそ、手を握ることしか、できなかった。
彼女はその手を握り返すと、眉を下げて。それから、お願いがあるんです、と他の仲間に話しかけた。
「すみません。リフィルさんを探さないといけないのはわかっているんです。でも、少しだけ……アリシアのところに、行ってもいでしょうか」
「もちろんだ。どうせ聞き込みをしないといけないし、全部見て回るつもりだったし。会いに行こうぜ」