レザレノ・カンパニーの屋上に整備された、空中庭園。
優しい緑と水に囲まれた美しいその庭園の中心に、彼女の妹はいた。
簡素だけれど手入れの行き届いた墓。中央に宝石のようなものを埋め込んだそれは、ただ静かに、そこに佇んでいる。
「……アリシア……こんな姿に……」
そっと撫でる墓石に、もちろんぬくもりはない。生前の面影なんて当然存在しないし、ただ冷たく、取り戻せない時間を突き付けるだけだ。
それ以上言葉を出せずにうつむく小さな背中を黙って見つめていると、ふと、ミトスが墓石に埋められた宝石を指さして首を傾げた。
「これは……なんですか?」
「ん? ここに埋められているのはエクスフィアだ!」
「どうしてエクスフィアが?」
───お姉ちゃん。お姉ちゃんでしょ
「……! アリシア?」
彼に言われて墓石を覗き込んだロイドが驚きの声を上げる。それに応えるように、どこからか声が聞こえてきて、わたしたちはきょろきょろと辺りを見回した。
直接頭に響くような、声。なんとなく聞き覚えがある。声そのものというより、こうして語り掛けてくる自称にだ。たしか、そう。救いの塔で、コレットが心を失う直前。こんな風に、彼女の声が聞こえてきて……うだ、これは、人の体から離れた心の声だ。
思い出すうちに、ぼうっと墓石の前に光が滲みだす。
その光はやがて人の姿を形作っていくと、プレセアちゃんによく似た、彼女よりいくらか年上に見える少女の……アリシアさんの姿へと変わった。
───消える前に会えてよかった……
「どうなっているの? まだ生きてくれているの?」
───私は……今、エクスフィアそのものよ。もうすぐ意識もなくなってしまう。私の身体はエクスフィアに奪われたまま死んでしまって、私の意識はエクスフィアに閉じ込められてしまったの
「……あなたまでエクスフィアの被害に……」
悔しそうに目を伏せてこぶしを握りこむ。
つまり、姉妹そろってエクスフィアに体を奪われたということだ。ひどい。だからジョルジュさんもあんな表情をしたのだろうか。でもどうして。どうして、エクスフィアの被害に。
───お姉ちゃん、お願い。私が消える前に私のご主人様を、ブライアンさまを探してきて
「ブライアン……? あなたが奉公に出た貴族?」
───そう……彼が私を殺すことで……
限界、だったのだろうか。ゆっくりと姿が消えて、声も遠くなっていく。
それを止めるように、すがりつくようにプレセアちゃんは手を伸ばしたけれど、その手はもちろん何も掴めない。光をすり抜けて、墓石に手を置いた彼女は、それでも妹に向かって叫んだ。
「アリシア! その人に殺されたの!? ……教えて!」
───お願い……お姉ちゃん……
それきり、彼女の声は聞こえなくなった。姿も空中庭園に溶けてしまって、今まで本当にアリシアさんがここにいたのか、わからなくなる。
プレセアちゃんはうつむいて、黙って。けれどやがて、その小さなこぶしを強く強く握りしめて。そうして、ゆっくりと立ち上がった。
「ロイドさん。お願いします。アリシアの仇を、探してください」
「……ああ、わかってる。ブライアンってやつを叩き潰して、連れてきてやる!」
「そうだよ。キミの妹を殺すなんて許せない!」
「……ありがとう」
その言葉を残して、みんなが庭園から出ていく。
けれど、みんなが墓石から離れるまで、ずっとそれを眺めているミトスに気付いて、足を止めた。
「どうしたの?」
「……エクスフィアって、恐ろしいものなんだね」
「そうだね……」
人の命を奪う、美しい石。
死んでなお、人の心をつなぎとめる、恐ろしい石。
その恩恵を受けるわたしたちだけれど……この石は常に人の命を蝕んで存在するのだと、改めて突き付けられた気がした。