「ジーニアス。気を付けて。リフィルさんもロイドも……みんなも」
「ああ。しばらく待っていてくれよ、ミトス」
「うん。それからジーニアス。よかったら、これ持って行って」
総督府を出ようとするわたしたちを呼び止めたミトスが、ジーニアスの手に何かを渡した。
彼の手には、ちょっとだけ大きくて古めかしいそれは、見覚えがある。たしか、そう。わたしがこの時代に来てしまう前に、マーテルさんが吹いていたリンカの実の笛。
どうしてミトスがそんなものを持っているのだろう、と思ったけれど、まああの辺りでは名産品だったみたいだし、今もどこかで売ってるのかもな、とぼんやりと思った。
「これは?」
「それって、リンカの実の笛?」
「うん。ボクの……亡くなった姉さまの形見」
「そんな大事なもの!」
さっと表情を青ざめたジーニアスに、ミトスはゆっくりと首を振る。
どうか持っていて、と押し返そうとしたジーニアスの手を取って、柔らかく微笑んだ。
「危険になったら、これを拭いて。何ができるかわからないけど、もしかしたら助けられるかもしれないから」
「わかったよ……ありがとう。でも、ボク、何か渡せるもの……」
「……じゃあ、これ。代わりに君に預けるよ」
何か同じくらい大切なものを渡さないと、とうろたえるジーニアスを見て、わたしはそれなら、とずっとかけていたペンダントを……ペンダントトップだけで、何もついていないそれを。あの日、二人に渡せなかった贈り物を、ミトスの手に乗せた。
……これは、わたしの。わたしのちょっとした心残りを誤魔化すための行動だ。
不思議そうにそれを見るミトスには関係のない、自己満足。
「これは……ペンダント?」
「ナギサ、それって、」
わたしがずっと持っていたことを知っているのだろう。何か言いたそうにしたロイドにしー、と指を立ててミトスに向き直る。
じっとそれを見つめる彼の手ごと握りこんで、これがあれば何が何でも帰ってくるよ、と彼の目を覗き込んだ。
「それ、わたしの大事なものなの。絶対に返してもらいに帰ってくるから、安心して」
ごめんね、ありがとう、と見上げてくるジーニアスに首を振って、手を離す。
ミトスがぎゅっとペンダントを握りしめたのを見て、ジーニアスも大事そうに笛をしまった。
「ボクも必ずもどってきて、この笛、返すから」
「……うん。気を付けて……」