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とにもかくにも、まずはパルマコスタの人間牧場を見に行こう。
そう言って町を出てからしばらくした頃、それまでちらちらとこちらの様子をうかがっていたロイドが、なあ、と話しかけてきた。後ろにはコレットとジーニアスもいて、三人して、わたしを気遣うような視線を向けている。

「いいのかよ、あれ、姉貴がずっと大事にしてたやつだろ」

心配そうに問いかけてきた内容は想像通り。さっき、ミトスに預けたペンダントのことだ。
もちろん、彼の言う通り、わたしの大事なもの。お姉さんの形見の代わりにはならないだろうけれど、わたしにとっては、きっと誰かの形見と同じくらい大事なものだ。
旅の最中、事あるごとに服の上から握りしめて、自分を奮い立たせてきたもの。さすがにそこまでは知らないだろうけれど、わたしがイセリアにいた時からずっと大事にしていたから、一緒に暮らしていたロイドは知っているのだろう。

「さすがロイド、よく覚えてるね」
「ずーっと大事に持ってたのも、親父に頼んで補強してもらったりしてたのも、ちゃんと知ってるからな。」
「うーん、さすがだ」

その通り。そもそもトップにつけていた石がどこかに行っちゃっていたわけだし、そこそこ壊れていたもので。だからと言って捨てることもできず、ダイクさんに頼んで直してもらったり、めったなことでは壊れないように補強してもらったりした。
おかげでこの旅の間、一度も壊れることなく、ずっと一緒に過ごすことのできた、とても……とても、思い入れのあるものだ。

「あれ、ナギサがイセリアに来た時にみんなで拾ったものだよね。ずっと大事に持ってたんだ」
「あれも、きっとミトスくんに関するものなんでしょ? 代わりに渡してもらう形になっちゃって、よかったのかなって」

申し訳なさそうに目を伏せるジーニアスは、ぎゅ、とおそらく笛をしまったのだろう場所に大事そうに手を添える。
そっか。この三人には特にミトスくんの話をしていたから、こんなに心配しているのだろう。わたしは、本当に何かあればなんでも彼とそのお姉さんの話をしていたから。その人たちとの思い出が本物だったと言う証明でもあるあのペンダントを一時的にでも手放して、本当によかったのかと。
……相変わらず、優しい子たちだな。わたしも彼らみたいになりたいって思うくらい、優しくてまっすぐな子たちだ。だからこそ、わたしは素直に心の内を言葉にした。

「ミトスのお姉さんの形見だなんてものに対するなら、ちょうどいいと思うけど」
「そうだけど……二人とも、大事なものを人に簡単に渡すんだもんな」
「簡単にじゃないよ。ちゃんと信頼をしてのことです。きっと、ミトスもね」

大切だから、絶対に帰ってきてほしいと願いを込めて宝物を渡す。
きっとこの人なら自分の宝物を害したりしないから大丈夫だと、信頼も込めて、あずける。
これは、結構覚悟のいることだ。簡単にできることじゃない。それくらい、ミトスはジーニアスのことを本当に好きで、心配していた。それを感じたから、わたしも彼なら大丈夫と思って預けた。……もちろん、それだけじゃないけど。

「大事であればあるほど、絶対に帰ってくるって安心できるでしょ。それに……まあ、あれ、二人に渡せなかったものだから。そっくりさんなミトスに一度預けることで、気持ちに区切りをつけたかったのもあるかな。ちょっと、申し訳ないけど」

これは、わたしの心残りを解消するための自己満足だ。
あの日、二人に自分で渡せすことのできなかった贈り物を彼に預けるという形で手に取ってもらうことで、わたしはちゃんと二人に恩返しも込めた贈り物を渡すことができたんだって、そう自分が思いたいだけの行動。それに、いろいろと言い訳をつけて実行しただけである。
ミトスのことを、ミトスくんの代わりにしたくないという気持ちも本当だ。彼らは別人である。わかっている。それでも、どうしても重なってしまうことが多い。
申し訳ないなと思いつつ、行動になかなか反映されないのだと視線を落とせば、ロイドはそっか、と口を開いた。

「……そういえば姉貴、また今度、刺繍入りの何かとか作りたいなって言ってたよな」
「え? うん。いや、本当によく覚えてるね」
「じゃ、今度ミトスにそれ作ってやれよ。ミトスくんに渡せなかったものを代わりにあずかってもらったお礼でもなんでもいいからさ。ミトスだけに、プレゼントを贈ろうぜ」

ミトスくんの代わりに何かをするのではなくて、今度はミトスだけに、彼だけを見て、何か贈り物でもしたらどうか。
どうしてもそっくりで、忘れられなくて、重ねてしまうことは、もう仕方ないから。せめて、ちゃんと彼個人を見て、彼だけに贈り物をして。少しずつ、ミトス個人と向き合っていけたらいいんじゃないか。
そう提案したロイドに、コレットとジーニアスは名案だ、と手を叩いた。

「そうだね。ナギサの手作りだったら、絶対に喜ぶよ!」
「お守り袋でもいいんじゃないかな。私、今もナギサにもらったもの持ってるけど、あれ可愛くてすっごく好きなんだ」

ほら、とコレットが懐から取り出したのは、世界再生の旅に出る前日、彼女の誕生日プレゼントと言って渡したものだ。
あの時のせいいっぱいの技術で作ったけれど、まあ、今見ると大したことはない。それでも彼女が大事に手入れして持っていてくれたんだろうな、とわかるそれに、なんだかこそばゆい気持ちになる。
でも……でも、そっか。うん。そうだね。ミトスに、お礼とお詫びも兼ねて、彼だけに贈り物をするのも、悪くないかも。
わたしは少しだけすっきりとした気持ちで、三人に笑いかけた。

「……ありがとう。うん、ぜひともそうするね!」