牧場は、外からぱっと見る限りは、爆破された時のまま、特に何も変わっていないように見えた。
けれど、入口のところでまるでわたしたちを待つように立つ人影に、なるほど、とニールさんたちの懸念を理解する。
数人のディザイアン……にそっくりな服装の兵士と、そしてもう何度も武器を交えたボータが、そこに立っていた。
「レネゲード!」
「そうか。ニールたちはディザイアンとレネゲードの区別がついてないんだ」
「お前たちを待っていた」
「おかしな話だな。我々がここに向かうことが予想できたというのか?」
「さあ、どうだろうな。それより我々と手を組まないか」
不敵に笑いながらそう手を差し伸べてくるボータに、リーガルさんもリフィルさんもすっと眉を顰める。
当然の反応だ。彼らは何度もコレットの命を狙ってきたし、ロイドとわたしを捕まえようとした。彼とユアンと戦ったのもそんなに前のことじゃない。それなのに、こうも堂々と共闘を提案するなんて。いったい何を考えているのだ。
「……呆れたこと。ロイドやコレットやナギサをさんざん狙ってきて、ムシがいいとは思わなくて」
「あの時と今とは状況が違う」
「ユアン!」
ゆっくりと姿を見せたユアンに、ロイドがさっと身構える。
その様子に彼は今日は戦うつもりはないと両手をかざして武器を持っていないことを示すと、ロイドをまっすぐに見すえて話し出した。
「大樹カーラーンを知っているか?」
「聖地カーラーンにあったっていう伝説の大樹か? 無限にマナを生み出すっていう命の木だ」
「それはおとぎ話じゃないんですか」
「大樹カーラーンは実在した。……君は知っているだろう、ナギサ」
名指しされて一瞬怯む。だが、わたしはすぐに控えめにうなずいた。
「……大樹カーラーンが戦争で枯れかかっていたことは知っています。でも、おとぎ話になるくらいに昔の話で、今はどこにも存在していないようですよ。それが、どう関係するんですか?」
「君の言う通り、大樹は古代カーラーン大戦によるマナの枯渇で枯れた。今ではもう、聖地カーラーンに種子を残しているだけだ」
「……最後の封印に、大樹の種子が!?」
「我々はその種子を大いなる実りと呼んでいる」
「ミトスの魂のこと?」
「それこそおとぎ話だ。世界にマナを供給する大いなる実りとは、大樹の種子をさしている」
大いなる実り。
アルテスタさんから聞いた話にも出てきた。あの時は、その正体がなんなのかわからなかったけれど……それは、大樹カーラーンの種子のことなのか。
確かに、マナを生み出す大樹の種子となれば、大事に守護するのは当然だろう。まさかそれが、最後の封印……救いの塔にあるとは、思わなかったけれど。
「二つの世界を一つに戻すためには、大いなる実りが必要不可欠だ」
二つの世界を、一つに。
ユアンの言葉に、みんなが息を飲んだ。
「二つの世界を、一つの世界にもどすだと!?」
「私はかつて言ったはずだ。ユグドラシルが二つの世界を作ったと。もともと世界は一つだった。シルヴァラントとテセアラ……二つの国が存在する世界だ。ナギサが以前いた時代は、ちょうど世界が二つに分かれる前の時代だ」
知ってる。ユグドラシルが二つの世界を作ったと、確かに彼は言った。
だから、考えていた。シルヴァラントとテセアラは、かつて同じ世界だったのではないかと。何かが起きて、世界は滅び、それをユグドラシルが二つの世界として再生したのではないかと。
もしくは、わたしが気付かなかっただけで、もともとシルヴァラントとテセアラは別々に存在していたとか。聖地が二つあり、二極があることから、こちらの方の可能性が強まっていたけれど……違う。
わたしの記憶通り、リフィルさんと考えた通り。二つの世界は一つだった。
古代大戦はシルヴァラントとテセアラの戦いだった。
けれど、滅びたわけでも、勇者が二つの世界を行き来していたわけでもない。
世界は、引き裂かれていた。
「それを、ユグドラシルが二つに引き裂き、ゆがめた」
「世界を引き裂くなんてことができるのか……?」
「ユグドラシルにはできた。そして二つの世界は大いなる実りからにじみ出るわずかなマナを奪い合って、なんとか存続しているのだ」
「だから、繁栄と衰退が繰り返されて、再生の神子が旅立つ……」
「しかし大いなる実りが発芽すればそれも終わる。大樹が復活するのだからな」
力強く説明するユアンを、ロイドはじっと見つめる。
その言葉通りであれば。大樹が復活することで二つの世界が救われるのなら。
いったい、どうすればいいのかを、彼は考える。
「どうしたら大樹が復活するんだ?」
「大いなる実りは死滅しかけている。それを救うために純粋なるマナを大量に照射する」
「そんなもの……地上にあるわけがないわ」
「クルシスの拠点がある。デリス・カーラーンは巨大なマナの塊でできた彗星だ。それをこの大地のはるか上空につなぎとめている。だからそれを使えばいい」
「それが本当なら、どうしてユグドラシルは大樹を復活させないんだ!」
「デリス・カーラーンの膨大なマナは、すべてマーテルにささげられている。マーテルを復活させるために」
「そんな……!」
「マーテルはクルシスの輝石の力で大いなる実りに寄生し、心だけが生きながらえている」
ユアンの言葉に、ぴくりと体が跳ねる。
マーテル。女神の名前。再生の神子を器として蘇ろうとしている、女神マーテル。
彼女は、クルシスの輝石の力で大いなる実りに寄生している。
ユグドラシルは、二つの世界を犠牲にして、そこに生きる命すべてを捧げて、マーテルを復活させようとしている。
それは……どうして?
「マーテルが目覚めれば、大いなる実りは彼女に吸収されて消滅するだろう。逆もまたしかり。それを阻止するためにユグドラシルは、マーテルが寄生した大いなる実りを精霊の封印という楔で護っている」
「だからレネゲードはマーテルの復活を阻止しようとしているのね」
「そうだ。我々は大いなる実りを発芽させる。その結果、マーテルは種子に取り込まれ消滅するだろう。そして……」
「大樹カーラーンが……復活する」