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「もしそうなったら、二つの世界はもとに戻るんですか?」
「……それはわからんが、種子が消滅すれば世界は滅びる」
「だからマーテル様には涙をのんで消えてもらうってか」
「マーテルはすでに死んでいるのだ。デリス・カーラーンのマナがなければ、とうに心も消えていた」
「ま、待って!」

思わずユアンの話を中断させるように、わたしは声を上げる。
だって、耐えられなかった。これ以上、話が進む前にはっきりさせておかないと、迷ってしまうと思った。
女神マーテルとユグドラシルのこと。
マーテルとミトスくんと同じ名前をした、二人の存在のこと。
ユグドラシルの名前だけなら、偶然だ。偶然だって言い聞かせてきた。女神の名前も、勇者ミトスの語る女神と、彼の姉の名前が混ざって伝えられたのだろうと。
でも……でも。ユグドラシルがマーテルに執着をするのは、どうして。
どうして、同じ名前の人がこんなにも目の前に。

「あなたの言った通りなら、勇者はわたしのミトスくんなんでしょ? じゃあ……じゃあ、女神マーテルって、誰? どうして、彼のお姉さんの名前が女神になってるの? どうしてユグドラシルはマーテルに執着して……」
「それはどうでもいいことだ。今目の前にある問題は、大いなる実りを発芽させること。違うか?」

違うよ、とは、言いきれなかった。
そうだ。これは、ただわたしが個人的に聞きたいこと。世界を救うためには関係ない、小さなこと。
何も言い返せなくなってうつむいたわたしに、ユアンは再び話を再開した。

「今まで大いなる実りは衰退世界の精霊によって守護されてきた」
「マナの楔だな」
「そう。そして楔は抜け始め、大いなる実りの守りは弱まっている」
「私たちが、二つの世界の精霊と契約をしているから……ですね」
「なるほど。だから私たちと手を組みたいのね。私たちにはしいなという召喚士がいる」

召喚士の資格を持つ人は、そう多くない。ううん、少なくとも、この度の間では一人も見たことがない。
そして、今までに挑戦したこともないということは、レネゲードにも資格を持つ人はいないのだろう。
だからこそ、召喚士しいながいるわたしたちと協力をしたいと言っている。二つの世界の精霊と契約し、精霊の楔を抜き、大いなる実りの守護を解いて……そこにマナを注ぐことで、大樹を復活させようとしている。

「ユアン。お前はクルシスか? それともレネゲードなのか?」
「……私はクルシスであり、レネゲードの党首でもある」
「獅子身中の虫……か?」
「ようするに、裏切り者だ」

ゼロスくんの揶揄するような言葉に、彼は何も言わない。それが、その通りだという何よりの証明であった。
彼は、これで自分が今話せることはすべて話したとばかりに毅然とした態度でロイドを見つめる。

「さあ、どうするのだ?」
「……わかった」
「信じるの? ロイド」
「……信じるさ。こいつは自分の裏切り者としての立場を明かした。それってやばいことなんじゃないのか?」
「……私も信じる」

ロイドとコレットがうなずいたことで、わたしたちの意見は決まった。
それを確認して、ユアンも助かるとひとつうなずいた。

「お前たちはロディルの牧場へ向かうのだったな」
「ホントによく知っているねえ。こっちに密偵でも放ってるんじゃないのか?」
「本当だよな。まあいいや。魔導砲ってのが完成する前にどうにかしたいんだ」
「それに、ロディルには……貸しがあります」

ぐ、とこぶしを握るプレセアちゃんは、その瞳に強い意志をたたえている。
そうだ。彼女だけじゃない。彼にはたくさんの貸しがある。そして目の前には、たくさんの因縁や、たくさんの課題がある。わたし個人の疑問は、後回しにして当然だ。……当然なのだ。

「牧場と魔導砲はシステムが連結しているはずだ管制室を無効化するといい」
「やけに……詳しいわね」
「我々もロディルの牧場に潜入する必要がある」

絶海牧場の入り口まで道案内という。手を組むのだから、それくらいは当然だ。
そして、今はマナを照射するための準備をしていて、そのせいで空間転移が使えなくなっているとのことだ。だからこれが終わるまで、わたしたちはテセアラへはいけない。
そう、一通り説明をしてから。彼は、わたしのまだもの言いたげな視線から目を外して、自分の右腕であるボータへ向き直った。

「あとは頼むぞ、ボータ」